2023年7月12日
SBSラジオ ゴゴボラケ

【川勝知事の給料未返上】1年7カ月前の話がなぜ今炎上?当時の担当記者が解説します

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「川勝知事の給料未返上」。先生役は静岡新聞ニュースセンター専任部長の市川雄一です。
※SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」で放送したものを編集しています。

(市川)いわゆるコシヒカリ発言で、2021年11月の県議会臨時会で、知事辞職勧告決議を受けた川勝平太知事が、自らのペナルティとして、当時の給料と期末手当の返上を表明していましたが、返上をしないままでいることがわかりました。

7月3日までに公開された2022年の所得等報告書では、2021年に続き、22年も給料やボーナスが返上されていませんでした。

(山田)まさにネットで大炎上になりましたね。

(市川)そもそものニュースは、川勝知事が「御殿場にはコシヒカリしかない」という差別発言で批判されてボーナス返上を表明しながら、していなかったという単純なことなんですが。

今回なぜ、ほぼ2年ぶりに再燃してるのか。ネットを含めたメディア空間のあり方を考えると非常に示唆を与える話題なので、掘り下げて考えたいと思います。

給料返上表明の経緯

(市川)2021年に僕は静岡県政の担当記者だったのでよく覚えていますが、当時参議院の補欠選挙をやっていたときに川勝知事が浜松市で応援演説をした。前御殿場市長だった対立候補を腐す形で、「御殿場にはコシヒカリしかない」って発言したんですね。 

ネットを中心に大問題になり、自民党を中心とした県議会の多数派が県政史上初となる辞職勧告決議案を可決しました。

ただ辞職勧告には法的拘束がないので、知事は当時深い反省を口にして、今後一切の政務活動、選挙応援をしないと約束して続投を表明したんです。

それがちょうど11月でしたから、12月支給のボーナスと給料の返上を合わせて表明したというのが経緯です。

新たな条例を作る必要があった


(市川)これがなぜ今、炎上してるかというと、最初に火をつけたのがNHKの報道でした。

毎年7月に前年の所得公開をすることが政治家に義務付けられており、今年7月には2022年分の所得が公開されました。そこで給料もボーナスも満額を受け取っていたことが判明したんです。これでもう大炎上。

(山田)「嘘じゃないか」と言うことですね。

(市川)ラジオなので炎上覚悟で率直な話をさせてもらいますけど、僕はこのニュースを最初に聞いたとき、白々しいニュースをやるなと思ったんですよ。

政治家による寄付行為は禁じられているので、知事が給料やボーナスを返上するためには新たな条例を作らないといけないんです。条例を作るためには県議会の可決が必要です。

県議会でいわゆる給料返上条例が可決されていないことはもちろん、提出もされていないということは、県政を取材している記者なら誰でも知っていたはず。

だから、所得公開に合わせて、今まさに発覚したかのように報道するのは白々しくないかと、第1印象として感じてしまいました。

(山田)「蓋開けてみたら」という感じで報道してましたけどね。

県議会側がつっぱった理由

(市川)報道のあり方の話は一旦、置いて、なぜ川勝知事はボーナスを返上していないのかということをまずお話ししたいと思います。

県議会が辞職勧告決議をしたというのは、「県内の特定の市を差別するような人間は、知事に不適格だから即刻辞任してほしい」という県議会の意思表示でした。

あくまで県議会が求めているのは知事の辞職なので、「ボーナス返上を認めれば、川勝知事を許したことになる」という理屈があった。だから県議会としては認められない話だったんです。

(山田)辞めてもらいたいのに、ちょっとした罰で片付けられても困るよということですね。

(市川)前回のラジオで、議会と行政当局が裏で調整している話をしましたが、この問題でも裏で調整をずっとやっていたんです。

川勝知事の発言を何とか実現したい県庁の事務方と、辞職を求め、ボーナス返上は認められないとつっぱる県議会が、調整を続けていました。結局県議会で条例案が可決される見込みがなく、提出されなかったんです。

行政取材の根幹というのは、税金がどう使われるかだと思っていたので、このボーナス返上問題について、当時かなりしつこく書きました。

最後に書いたのは2021年12月の「報酬返上できず」という見出しがついた記事です。知事が定例会見でボーナスを返上できなかった事実を重く受け止めているという内容でした。ただこの時、今後の対応については「未定」としたんですよ。ケリをつけていなかったんですよね。

問題の根幹は…


(市川)この問題の根幹って川勝知事にあると思うんですね。
①知事は事務方と相談せずに突然、実現可能性の低いボーナス返上を口にした
②県議会に反対されようが、言ったことですから条例を提出するべきだった
③返上できない事実に直面したときにしっかりそのことを説明し、思いつきの発言を謝罪するべきだった

この3点は、川勝知事に責任があると思います。

報道のあり方に話を戻すと、22年度に入ってから、この話題が出ることはなかったんですね。

政治家の言葉というのは重いものです。川勝知事自身は12月の会見で、重く受け止めていると述べ、「選挙の応援はせず知事の職責を全うします」​という言葉で、この問題にケリをつけたつもりだったと思うんですよ。当時、県議会もある程度納得していたので、22年度はこの話題は出なかった。

だから、NHKの報道について白々しいニュースだと言いましたけれども、そういう観点から言うと、意味のあるニュースだったのかなとも思っています。

(山田)このことを表に出してくれたということですね。

(市川)当時の事情をすっ飛ばして、「ボーナス返上すると言ったのに返上していなかった、嘘つきだ」とネット空間で批判の大合唱になるのはちょっとフェアじゃないかなという気がするんですよ。

少なくとも、当時の県議会の意向で条例を提出できなかったということを踏まえてから批判するべきなのかなと思っています。

知事への漠然とした不満から炎上

(市川)ただ今回の炎上は、最近の川勝知事の言動にも関係していると思っています。リニア問題などで、ちょっと論理が破綻してるような発言が散見されています。事務方との連携不足も関係してるのかなとも感じます。

(山田)全国的に見ても川勝知事が「叩かれやすい」存在になってしまっているというところもありますよね。

(市川)社会全体が持っている、川勝知事は「一貫性がないんじゃないか」という漠然とした批判や不満といったものに、今回の1年7カ月前のボーナス返上騒動が格好のエサになったのかなと思います。

(山田)この流れを知ってニュースを読むか、上辺だけで批判を見るかで、変わってきますね。

(市川)知事は絶大な権力を持ってるので、報道機関は常に監視をして、批判をすべき時は批判するという姿勢は絶対に必要だと思っています。

一方で、ネットで誰でも自分の思いを発言できる社会になっているので、メディアとしても、権力を批判するときは事実に基づいて説得力を持った論理で批判することが求められてるのかなと思います。

今後の展開は。逆ギレ返上も!?

(山田)今後はどうなりそうですか。

(市川)この炎上を受けて、知事は逆ギレして返上すると言い出すと思います(※放送翌日の11日の定例会見で知事は返上を表明)。

県議会としてはすぐに認められる話ではない。また、知事不信任や辞職勧告をちらつかせて大喧嘩に発展するかもしれません。ただ、県議会も22年度に追及していない負い目があるので、このままフェードアウトしていく可能性もあります。

(山田)ニュースから報道のあり方ってところも見えてくる。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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