2025年5月15日
河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

最後まで攻撃的な姿勢は見せつつも…。ジュビロ磐田に惜敗の“蒼藤決戦”で藤枝MYFCに足りなかったもの


【サッカージャーナリスト・河治良幸】
藤枝MYFCは新たに“蒼藤決戦”と名付けられたジュビロ磐田とのアウエーゲームに挑み、後半アディショナルタイムのPKによる失点(得点者はマテウス・ペイショット)で、0−1と敗れた。最後はホームの応援をバックに付けた磐田の厚みのある攻撃をせき止めることができず、クロスのセカンドボールを起点とした倍井謙のドリブルを右ウイングバックの榎本啓吾がペナルティエリア内で引っ掛けてしまった。

普通ならアウエーの地で後半アディショナルタイムの失点により勝ち点1を逃したことが悔やまれるところだが、“ハイエナジーフットボール”を掲げる須藤大輔監督の基準がそこにないことは、改めて試合後の記者会見を聞いても伝わってくる。

「相手のストロングに対してわれわれが引くのではなくて、そのストロングを前でつぶしにいく姿勢だったりというところは非常に表現してくれた」と選手たちの頑張りに評価を示しながらも、須藤監督は「なぜ勝てなかったか、やはりゴールネットを揺らせていないから」と強調した。

もちろん守備の改善に向き合っていないわけではなかった。3−4−2−1をベースとする藤枝は高い位置からボールを奪いにいきながらも、中央で危険な状況を生まないように、磐田の攻撃をできるだけ外に追い出していた。

外側からのクロスボールには元磐田の選手でもあるキャプテンの中川創が統率する3バックを中心にはね返し、セカンドボールを拾っては縦に鋭い攻撃を繰り出して、何度も磐田ゴールに迫った。

J2で最も高いボール保持率を誇る磐田が、効果的なロングボールで藤枝の3バックの背後や、その両脇にあるウイングバック裏のスペースを積極的に狙ってきたことは藤枝からしても厄介だったかもしれない。

ハイプレスを外されると、前線中央の渡邉りょうはもちろん、左右ウイングの倍井謙、ジョルディ・クルークス、あるいはトップ下からワイドに流れた角昂志郎が縦に走ってくる。一時的にウイングバックが下がって、後ろを5バックにせざるをえないシーンが増えた。

危険な位置での守備も増える中で、前半12分にペナルティエリア内で角の仕掛けに対応した中川の守備があわやPKというシーンがあったほか、前半のうちに中央センターバックの楠本卓海と右センターバックの久富良輔、ボランチの岡澤昂星という守備的なポジションに3枚の警告が出るなど、難しい状況になった。

それでも須藤監督は「ディフェンスラインは攻めてる時に、しっかり相手を認知してポジションを取ること。ボールを失うことがある前提でポジションを取る。失った選手はゾーン1と言ってますけど、そこ(ボールを失ったその場の位置)で奪い返す作業をする。ゾーン2でせき止める。そこを打破されたら(守備位置を)戻すということはしっかりできていた」と振り返った。

守備範囲の広いGK北村海チディを後ろざさえに耐え抜きながら、あくまで攻撃はアグレッシブに前向きな攻撃を続けて、磐田ゴールを脅かした。最も惜しかったシーンの一つが前半26分のシーンだ。

左サイドを起点に磐田陣内に押し込んだ状態から、中川の縦パスからボランチの浅倉廉がワンクッションを入れて、左サイドから中に流れてきたシマブク・カズヨシが右足で強烈なミドルシュート。

これは磐田GK三浦龍輝に防がれたが、セカンドボールを左に流れていた岡澤が拾ってクロスに持ち込む。磐田DFの江﨑巧朗にクリアされたが、それを拾ってドリブルに持ち込んだ浅倉が倒されて絶好の位置でFKを得た。シマブクのキックは磐田の体を張った守備でコーナーに逃れられたが、そうした藤枝の目指す流動的な攻撃を見せることはできていた。

ただ、須藤監督は「ボールを失っていた回数も多かったので、今度はそっちに針を振っていかなければいけない」と語る。データ面で見ると、磐田のパス成功率は79パーセントだったが、藤枝は73パーセントにとどまった。

アグレッシブに攻めている前提で評価しても、藤枝が目指す攻撃のスタイルからすると、高いとは言えない。90分を振り返れば得点が入ってもおかしくないシーンはいくつかあったが、攻撃の連続性というところで磐田を上回ることはできていなかった。

それでも後半45分に、久富から中村涼、松木駿之介に代えて榎本を投入し、最後まで勝ち点3を狙う姿勢を見せた結果の敗戦だったことは、須藤監督が率いる藤枝の矜持と言える。そこにどう結果をつけていけるか。

磐田OBでもあるキャプテン中川創は「ここ数試合にはなかったものを出せたのかなというのは感じています」と前置きしながら「良いゲームができている、良い時間帯がある、自分たちのサッカーができているだけではサッカーってダメだというのは全員分かっています。特に今日のようなゲームに勝たないと、自分たちが目指しているものへ届くのに時間がかかってしまう」と語った。

現在16位の藤枝が、ここから1つ1つ勝利を重ねて、中位、上位と浮上していけるのか。ポジティブな要素は見出しつつも、シーズンの正念場に差し掛かってきていることも確かだ。

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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