2025年11月6日

愛知・豊明市の「スマホ条例」。「2時間」を守ればいいの?依存しないために大切なことは何なのか。

9月に愛知県の豊明市議会で、スマートフォンなどの使いすぎを防止するために全市民を対象に「仕事や勉強以外の使用時間の目安を1日2時間以内」と定めた条例が可決され、10月1日に施行されました。注目されているこのニュースについて、国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員研究員で、情報リテラシーの専門家小木曽健さんにお話を伺いました。聞き手はSBSアナウンサー松下晴輝。
「2時間以内」の根拠は…?
松下:この条例が制定された背景について、まずは教えていただけますか。小木曽:「子供がスマホばっかり使っている」とお困りの親御さんはたくさんいると思います。しかし、それが条例というかなり直接的な規定になった経緯や「2時間まで」とした根拠はちゃんと説明されていないので、正直、ちょっとよくわからない感じなんですよね。
松下:そして、この条例を制定した市長自身のスマホ利用時間も全然2時間に収まっていなかったという笑い話もありました。確かに、そのあたりは疑問が残りますよね。
小木曽:そもそも「何時間」と時間の長さで判断すること自体が実は間違っていて、問題は時間ではなく、「どんな弊害が起きてるのか」なんです。
例えば睡眠不足で成績が下がったとか、そっちなんですよね。スマホは2時間までとしたところで勉強や親子のコミュニケーションは増えなければ意味がないし、「夜にスマホを使うな」と言っても、9時や10時から家のゲーム機でゲームを始めたら、寝不足は解消されないわけです。市民を規制するだけで、問題を解決する機能が条例に組み込まれてないんですよね。
まさか議員さんたちが「スマホ取り上げたら家族の会話が弾むんだろう」なんて思っていないか、心配になります。
松下:本当にそういう心配も感じられます。今回の条例は、罰則がない理念条例というものだそうですね。罰則がない条例というのはあまり聞きませんが、これは意味があるんですか。
小木曽:珍しいものではないんです。ただ、条例の重みというものを、作られた方々があまり理解していない気がしています。
条例って日本の法律の範囲で、人を逮捕したり、罰金を払わせたりもできる、非常に強いものなんですよね。だから、根拠も示さないで思いつきで作ってしまうようなものではないと言えます。
しかもこの条例が、もしかしたら日本の法律の範囲を逸脱している可能性もあります。「スマホの使用についての条例は、個人の権利や財産権っていうものを侵害しているのではないか」という辺りまで、ちゃんと考えてないんじゃないのかなと。
もし、国がこれと同じことをやったら大騒ぎになると思うんですよね。だから今回の内容であれば、啓発のパンフレットなどでやるべきだったんじゃないのかなとは思います。
問題を解決するためのルールが必要
松下:ただ、スマホの長時間の使用や、スマホ依存と呼ばれる状態には注意が必要なんだなっていうのは、確かにわかるんですよ。小木曽:はい。正直1時間のスマホ使用でも問題が起きている子もいるし、4時間の使用でも何とかうまくやってる子はいるんですね。大事なのは、使いすぎたその先に起きる弊害であって、その内容は大人も子供も人それぞれです。
例えば成績が下がっているんだったら、スマホをやめるんじゃなくて、「○時間勉強する」。夜ふかしで体を壊していたら、「○時間寝る」。ちゃんとその問題を解決できるルールを作らないと、正直何も解決しないんですよね。
松下:「スマホ依存症」なんていうような言葉で呼ばれるようになって久しいですが、子供だけではなく大人も含めて、このスマホ依存が我々の課題になってきています。
小木曽:確かに皆さん自覚されてると思うんですが、実は、依存と依存症って全然違うんですよね。読書好きは言い換えれば読書依存とも言えるんですが、もし本の読みすぎで日常生活に支障が出て、それがずっと長期解決できなかったら、初めて「読書依存症」になるんですよ。
あるお医者さんが「スマホ依存」を病気として認めようと色々な活動をされましたが、結局できなかったんですよね。なんとか「ゲーム障害」っていうものを認めさせたのがやっとだったんですよ。それくらい依存症の定義って厳密なんです。
松下:何気なく「スマホ依存症」といった言葉を使っていましたが、依存と依存症はしっかりと別のものとして考えないといけないんですね。
小木曽:お酒大好きとアル中は全然違いますからね。
「条例」にするなら慎重に検討を
松下:今回のこの豊明市の条例から見えたものなどはありましたか?小木曽:今後もスマホの利用時間は確実に増えていきます。我々が小さい頃にあったラジカセや家の電話、漫画に雑誌、ビデオゲームなど、熱中していたものが今スマホにどんどん吸い込まれていて、今後もこの動きは変わらないということは、スマホの利用時間は減ることはないです。だからそれを知った上で、良い部分というのを見つけて、ちゃんと距離を置いて付き合い続けることが重要になるのかなと思っています。
スマホの無料学習動画だけで勉強して、塾には行かずに大学に入った子もいるんですよ。そういった子から勉強の機会を奪いかねない、とも言えるのが今回の条例ですので、議員さん達もちゃんと勉強してほしいなと思います。
条例って、グレーな部分が多いものがすごくあるんですよ。香川県のゲーム規制、鳥取県のAIの児童ポルノ規制など、法的にちょっと踏み込みすぎたなっていうものがあるのでもうちょっと考えて作っていただきたいなというのが感想でした。
松下:今回は愛知県の一つの市で起こったことですが、条例のあり方や、そもそもどういう基準を持って議場に上げていくのかっていうところも含めて、考えさせられるニュースになりました。小木曽さん、どうもありがとうございました。
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