2026年2月6日

サッカージャーナリスト河治良幸
「結果」と「成長」を掴む半年間へ。ジュビロ磐田は百年構想リーグをどう戦うか

志垣監督がチーム立ち上げの最初に着手したのは守備だった。これは単なるリスク管理ではない。守備の意識と強度が伴わなければ、攻撃のトレーニングは成立しないという実戦的な発想に基づくものだ。試合で守備をする意識がなければ、攻撃の質も上がらない。失点しなければ負けないという原則を、日常の練習から共有し直すことが、すべての出発点になっている。
重要なのは、志垣監督が守備と攻撃を切り分けて考えていない点だ。守備は「耐える時間」ではなく、「次の攻撃を成立させる準備段階」であり、奪った後にどれだけ早く、どれだけ完結できるかまでを含めて設計されている。カウンターの局面で秒数を区切り、ゴールまで持っていくトレーニングが行われているのも、その思想の延長線上にある。上手いチームは数少ないチャンスを一撃で仕留め、その1点を守り切る。その現実を理論ではなく反復で体に落とし込もうとしている。
システムに対する姿勢も一貫している。4-4-2から3-4-3への可変は、あくまで相手にズレを生むための手段であり、目的ではない。志垣監督が繰り返し強調するのは、局面ごとの判断力と距離感だ。どの形に見えていても、攻撃では良い距離で関係性を作り、最後は良いシュートで終わること。守備では、緊急事態にどう対応できるか。そのディテールこそが、試合の流れを左右するという認識がある。
セットプレーの設計にも、その現実主義は表れている。基本形を示した上で、最終的な選択は選手に委ねる。相手を見て、相手が嫌がることを選ぶ。バリエーションを持つことで、相手の分析コストを引き上げ、他の準備に割く時間を奪う。ロングスローのような武器も、結果が求められるトップカテゴリーでは十分に合理的であり、育成的価値より即効性を優先する判断は、百年構想リーグという立ち位置を考えれば自然だ。

選手起用においても、志垣監督は「今できる基準」を明確に示しながらトライを重ねている。明日が開幕でも戦えるパフォーマンスかどうか。そのラインを共有した上で、まだ試していないペアや配置にも時間を割く。増田大空の右サイド起用のように、個の武器を生かす場所を探りつつ、別のポジションを経験させることで、元の位置に戻ったときの視野を広げる狙いもある。百年構想リーグにおける「結果と成長」の比率を、9対1から8対2へとわずかに振るという表現は、そのバランス感覚を端的に示している。
J2・J3百年構想リーグは40チームが、全国の地理関係を考慮した4つのグループに分かれてホーム&アウェーを戦い、最後に順位を決定するプレーオフが行われる。磐田が属するEAST-Bを見渡すと、昨年J1昇格プレーオフに進出した、磐田と大宮を軸とした構図は確かに存在する。ただし、札幌、いわき、甲府、藤枝など、それぞれ百年構想リーグの戦略に違いがあり、一概に戦力比較だけで順位を予想することは難しい。例えば大宮はレッドブル・グループの哲学のもと、この半年間は選手の成長を重視する可能性があり、宮沢悠生監督も積極的に若手を起用していく公算が大きい。
磐田と上位を争う筆頭候補になる札幌は川井健太新監督のもと、守備の整理から入りつつ、4-3-3をベースに支配的なスタイルを構築中だ。主力固定を急がず、競争を促す運用になると見られるが、ボランチの舵取り役が機能するかどうかが序盤の鍵になる。いわきFCはフィジカルを前面に出したダイナミックなサッカーを継続するが、メンバーの入れ替わりの多さを考えると、短期間での完成度という点では未知数だ。
静岡県勢のライバルである藤枝MYFCは槙野智章新監督が掲げるスローガン「UBAU」を軸に、須藤大輔前監督(現・横浜FC)の“ハイエナジーヒットボール”ともまた違う、独自の攻撃スタイルと高いボール奪取の意識を前面に押し出していきそうだ。磐田とは第5節で対戦するが、その前に開幕からホーム3連戦があり、岐阜戦からスタートダッシュを切れるかが躍進の鍵を握る。
百年構想リーグは、順位表以上に「何を積み上げたか」が問われる大会だ。磐田はホームの長野戦で始まるが、勝利はもちろんのこと、その先が楽しみになる内容を見せられるかどうかも大事だろう。志垣監督が「結果と成長」をテーマに掲げるように、その積み重ねが、26-27シーズンのJ1昇格へと、どれだけ直線的につながっていくのか。この半年間は、その成否を占う、極めて重要なプロセスになる。
(文:サッカージャーナリスト河治良幸)
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。
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