2023年5月17日
SBSラジオ ゴゴボラケ

【駿河湾のサクラエビ復活か】これまでの深刻な不漁は何が原因だったの?豊漁は続くの?

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「駿河湾のサクラエビ復活か」。先生役は静岡新聞ニュースセンター専任部長の市川雄一が務めます。
※SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」で放送したものを編集しています。

(市川)駿河湾のサクラエビは一時期深刻な不漁が続いていましたが、春漁初日の4月4日の水揚げ量がおよそ40トンで、昨春(0.9トン)の40倍以上に達しました。その後の漁獲量も安定的に推移しています。静岡大創造科学技術大学院の研究グループによれば、水揚げされたサクラエビの体長組成分析からも、資源状況の改善は見て取れるそうです。

(山田)40倍って。本当にびっくりしました。

(市川)静岡市の由比港で取れるサクラエビは静岡県を代表する特産品です。生で食べるのはもちろん、かき揚げにしてもとっても美味しい。このサクラエビに2018年、危機が訪れました。今から5年前、その年の春漁で過去最低の漁獲量、記録的な不漁に陥ったんです。

取り過ぎが原因じゃないかと、その年の秋漁ではサクラエビの漁業組合が初めて、漁の自主規制を行いました。

静岡新聞では2018年の春漁の深刻的な不漁を受けて、「サクラエビ異変」というタイトルのキャンペーン報道をスタートしました。取材班を組んで「サクラエビの不漁の原因は何なんだ」ということを多角的に取材し、分析してきました。

不漁の原因の一つに富士川の濁りがあるのでは、と報じたのが2018年12月でした。濁りがあると不漁になるのは、サクラエビの餌となるプランクトンが減ってしまうから。では、なぜ富士川の水は濁っているのか。取材班は原因を突き止めようと川をどんどん登っていき、山梨県の雨畑ダムにたどり着きました。

このダムは2011年からダム湖の底に砂がどんどん堆積し、どんどん水が濁っていったようです。このダムの水は導水管を通って水力発電した後、駿河湾へと放出されていました。

(山田)この報道を見るまで、富士川はきれいというイメージがずっとありました。

(市川)昔はアユ釣りが盛んなところだったんですよね。かつては「アユの川」と言われたらしいですが、最近は「死の川」などと言われるぐらい、水も減ってしまっているし、アユも全然来なくなっていました。

取材班はその後、ダムを管理する会社の水利権の歴史や、採石業者が凝集剤入りの汚泥を不法投棄していることなど、富士川の水の問題をどんどん掘り下げていったんです。

最終的にこの報道によって、国や県が富士川の環境改善に向けて動きました。国は今年3月、富士川の河川維持流量を設定。河川に流れる水の量を「一定のこれ以上にしなさいよ」と定めたりしました。

(山田)その結果どうなったんですか。

(市川)キャンペーン報道などとは直接的な因果関係があるとは言い切れませんが、今春サクラエビは豊漁になり、富士川に稚アユが大量に遡上する様子も確認されてニュースになりました。アユが富士山をバックにぴょんと跳ねている写真を静岡新聞に掲載しました。

嘉田由紀子さん「サクラエビは自然からの『使者』」


(山田)私たちは今春のサクラエビの豊漁を喜んでいいんですよね。

(市川)そうですね。ただ、富士川はまだまだ、いろいろな問題をはらんでいます。採石業者の不法投棄については、山梨県も取り締まりを強化する条例をつくることを表明したりしていますが、予備軍みたいな業者もいるという話を聞きます。油断すれば、富士川が「死の川」に戻ってしまう可能性はいくらでもありそうです。

サクラエビ異変のキャンペーンは4年半続けてきましたが、5月13日付朝刊に掲載した記事で終止符を打ちました。キャンペーンの最後に、参院議員で元滋賀県知事の嘉田由紀子さんという水の専門家のインタビューを掲載しました。

嘉田さんはこんな言葉を残しています。
「どんなに人工知能や工業が発達しても、人はサクラエビやアユ、富士川の水一滴もつくれない。何千年、何万年と命をつないできたサクラエビやアユを自然からの『使者』と考えたらどうか。人は自然の価値を管理しきれず、差配しきれない。感謝するということが大切では」。

私たちは、富士川の水をやっぱり一滴もつくれないんですよ。だからこそ、この川を大事にして環境を守らなければ、という締めくくりでした。

(山田)4年半続けてきた静岡新聞のサクラエビ報道で、川の環境を見直そう、きれいにしようと国や県を動かした。マスメディアとして、大きなことをしたのでは。

(市川)マスメディアはそうした役割を担ってはいますが、いろいろな社会問題を解決していくためには、市民や県民が関心を持ち続けることが一番大事かなと思います。

(山田)美味しそうなサクラエビを見たときは、このニュースを思い出してもらいたいですね。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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