2025年1月6日
論説委員しずおか文化談話室

【rockin’on sonic】 プライマル・スクリームが40年かけて作り上げた「ロックンロール・ショウ」

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は1月4,5両日に千葉県の幕張メッセで開催された音楽フェスティバル「rockin’on sonic」を題材に。同フェスは焼津市出身の清水直樹さんが代表取締役社長を務めるクリエイティブマンプロダクション(東京都渋谷区)と音楽誌「ロッキング・オン」の共催。

幅広い世代の洋楽ファンを強く打ち抜くラインナップの初開催屋内フェス。キャパシティー2万人のGALAXY STAGE、8000人のCOSMO STAGEに2日間で16組が登場した。出演はパルプ、セイント・ヴィンセント、プライマル・スクリーム、ウィーザー、デス・キャブ・フォー・キューティー、マニック・ストリート・プリーチャーズ、ジーザス&メリーチェインなど。1980年代から1990年代に結成され、今なお活動を続ける英米のバンドが中心だった。

今の音楽フェスは、どこも「祝祭」「祭り」のイメージが強い。これは悪いことばかりではないが、チケットの価値に占める「音楽」の比重がかつてに比べて下がっているのは否めない。フェスのキャラクターにもよるが、ステージでの演奏よりワークショップや子ども向けのアトラクションに相当な時間を費やす参加者も多いのではないか。

1990年代後半から2000年代前半のフェスはちょっと違っていた。「1枚のチケットでこんなにたくさんのバンドが見られるのか」といったある種の「お得感」と未知の音楽への好奇心がない交ぜになり、できる限りたくさんステージを見ようとする人が多かったように思う。国内外のアーティストの演奏を、半ば貪欲に楽しんでいた。

「rockin’on sonic」には、そうした雰囲気があった。二つのステージの演目が交互に組まれたタイムテーブルに従えば、出演した16バンドを全て見ることが可能。現場では、観客がステージ間をぞろぞろと大移動する光景が見られた。

「酒を飲む暇もない」という声さえ聞かれた。「できる限りたくさん見る」という観客の姿勢が充満していた。日本の野外フェス黎明期の「あの雰囲気」が満ち満ちていた。

個人的には初日のプライマル・スクリームに胸打たれた。黒人女性シンガー2人、サックス奏者を含む7人編成。ラメのストライプが入った黒スーツのボビー・ギレスピーはくねくねと踊り歌いながら、広いステージを右に左に動き回った。

新作「Come Ahead」の「Love Insurrection」から1994年のアルバム「Give Out But Don't Give Up」収録の「Jailbird」、再び新作の「Ready To Go Home」と続くグルーヴィーな幕開けも良かったし、「Loaded」「Movin’ On Up」が連なる「Screamadelica」(1991年)コーナーでは不覚にも落涙した。

「最高にくそヤバいロックナンバーだぜ」(意訳)とのMCから「Rocks」で締め。盛り上がる観客を前に、ギレスピーは心底うれしそうに笑った。彼が40年かけて作り上げた「プライマル・スクリーム一座」の「ロックンロール・ショウ」の格好良さと価値は、見た者全ての心に届いたはずだ。
(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

おでかけ
エンタメ
焼津市

あなたにおすすめの記事

  • 【「FUJI&SUN’25」2日目リポート 】U-zhaanと鎮座DOPENESSの共演実現。ハナレグミの静岡ゆかりの名曲で大団円

    【「FUJI&SUN’25」2日目リポート 】U-zhaanと鎮座DOPENESSの共演実現。ハナレグミの静岡ゆかりの名曲で大団円

    論説委員しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #三島市
    #富士市
  • 【開催中止】音楽フェス『頂―ITADAKI―』参戦歴15年の私が“絶対に”ステージ前で見るだろう1日目のアーティスト3選

    【開催中止】音楽フェス『頂―ITADAKI―』参戦歴15年の私が“絶対に”ステージ前で見るだろう1日目のアーティスト3選

    静岡新聞教育文化部

    #おでかけ
    #アウトドア
    #イベント
    #エンタメ
    #吉田町
  • ​【「NEC presents FUJI & SUN'25 」タイムテーブル発表】 静岡県民目線で見どころを探る。柴田聡子、君島大空、中村佳穂、サム・ウィルクス、くるり、吉原祇園太鼓セッションズ

    ​【「NEC presents FUJI & SUN'25 」タイムテーブル発表】 静岡県民目線で見どころを探る。柴田聡子、君島大空、中村佳穂、サム・ウィルクス、くるり、吉原祇園太鼓セッションズ

    論説委員しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #伊豆
    #静岡市
    #静岡市駿河区
    #富士宮市
    #富士市
    #伊東市
  • 【ユニークポイント「Come on with the rain」】 ベトナムのホテルでの会話劇。 数秒後、数分後が気になり見入ってしまう

    【ユニークポイント「Come on with the rain」】 ベトナムのホテルでの会話劇。 数秒後、数分後が気になり見入ってしまう

    論説委員しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #藤枝市
  • 【「FUJI&SUN’25」初日リポート 】 堀込泰行、柴田聡子、君島大空、折坂悠太-。気鋭のシンガー・ソングライターつるべ打ち

    【「FUJI&SUN’25」初日リポート 】 堀込泰行、柴田聡子、君島大空、折坂悠太-。気鋭のシンガー・ソングライターつるべ打ち

    論説委員しずおか文化談話室

    #エンタメ
    #おでかけ
    #富士市
  • 【ポール・ラーソンさん、静岡市でherpianoと共演】28年前からの縁が結実。米西海岸エモの重要人物と日本インディーの至宝が同じステージに

    【ポール・ラーソンさん、静岡市でherpianoと共演】28年前からの縁が結実。米西海岸エモの重要人物と日本インディーの至宝が同じステージに

    論説委員しずおか文化談話室

    #おでかけ
    #エンタメ
    #静岡市
    #静岡市葵区
  • 【クラシックコンサートの作り手】静岡、浜松には老舗の音楽団体が存在する!小澤征爾さんを招聘した秘策とは?40年にわたる活動を振り返ります

    【クラシックコンサートの作り手】静岡、浜松には老舗の音楽団体が存在する!小澤征爾さんを招聘した秘策とは?40年にわたる活動を振り返ります

    SBSラジオ ゴゴボラケ

    #エンタメ
    #おでかけ
    #県内アートさんぽ
    #浜松市
    #静岡市
  • コンビニで買って混ぜて完成!簡単なのに美味しすぎると話題「コンビニかけ合わせグルメ」

    コンビニで買って混ぜて完成!簡単なのに美味しすぎると話題「コンビニかけ合わせグルメ」

    SBSラジオ IPPO

    #暮らし
    #おうちグルメ
    #コンビニグルメ
  • エスパルス×ヴェルディはチケット完売必至の「黄金カード」だった!!  あすJ1昇格かけて激突する両雄の“31年前の激闘”をプレイバック 

    エスパルス×ヴェルディはチケット完売必至の「黄金カード」だった!! あすJ1昇格かけて激突する両雄の“31年前の激闘”をプレイバック 

    シズサカ編集部

    #サッカー
    #スポーツ
    #清水エスパルス
  • 設立から40年で破産…。伝説の『ガイナックス』が持っていた特別な存在感とは何だったのか

    設立から40年で破産…。伝説の『ガイナックス』が持っていた特別な存在感とは何だったのか

    SBSラジオ トロアニ

    #エンタメ
    #アニメ