2025年3月21日
静岡新聞運動部

<選抜高校野球>常葉大菊川が旋風を巻き起こした2007年。3ラン2本を放った遊撃手長谷川裕介さんにとって甲子園とは何だったか?


3月18日に開幕した第97回選抜高校野球大会に、静岡県の常葉大菊川が出場します。今年の新3年生は、同校(当時は常葉菊川)が日本一に輝いた2007年に生まれた世代。当時の優勝メンバーで、3番遊撃手の主力だった長谷川裕介さんに話を聞き、試合や高校時代の思い出を振り返ってもらいました。 

一問一答

ー2007年選抜、仙台育英との初戦を振り返って。
よく覚えているのが初回の先頭打者。三遊間のゴロをさばくことができて楽になり、そこからは普段通りにプレーできた。(1打席目はセンターへの大飛球)相手の佐藤由規選手(元ヤクルトなど)は全国ナンバーワン投手だったし、いい当たりが抜けなかった。捉えてはいたから状態が良いとその時は感じた。

ー2回戦~準決勝までの3試合で無安打だった。
初戦はうまくいったが、大会全体でいえば個人としては駄目だった。チームが優勝してうれしい中で、自分の中では苦しんだ部分もあったから悔しさが残った。

ー森下監督から言われたことは?
選抜の後の夏のアドバイスが印象に残っている。春の結果が悔しくて、夏は甲子園で活躍したかったが、大阪に入ってからも状態が上がらかった。その中での前日練習で、森下先生がアドバイスをくれて感覚が良くなった。内容は右手が返るのが早いということ。修正をして、翌日の日大山形戦では2本、本塁打を打つことができた。一気に状態が上がって結果を出せたのでとても感謝している。

ー夏の甲子園初戦では2本の3ランで大きなインパクトを残した。
できすぎだった。(2本目の)バックスクリーンの横になんて打ち込んだことはないし、自分の力以上のものが出るんだ思った。(左翼席中段への)1本目は完璧。夏の初戦の1打席目で出てよかった。3番を任されながら選抜では外野の頭を越えなかったから、パワーアップするために頑張った。成果が出せたので夏は納得できた。

ー選抜優勝の直前、最後の打者の打球は遊ゴロだった。
自分のところに飛んで来るな(来ないでくれ)と思っていた。でも来たらどうしようとは思わなかった。二塁走者とかぶって打球も速かったので、何としても前に落とそうとした。送球は少し引っかかった。

ー優勝の景色を覚えている?
マウンドでの光景はよく覚えている。甲子園でのプレーは何年経っても覚えている。18年前になるが、甲子園ってすごく特別。この先も忘れないのだろう。甲子園優勝なんて思ってもいなかったし、全国で勝てるかも分からなかった。だから先のことなんて一切考えず、目の前の試合に勝つだけという思い。気付いたら終わっていた。

ー最後の1本をなぜ打つことできたか。
調子が悪い中でも、自分のやり続けてきたことを変えずに最後まで継続したというところ。しっかり準備をしてやり抜くことができたからだと思う。

ー甲子園の経験は今の人生にどう生かされているか。
夏の準決勝で広陵に負けたことがすごく心に残っている。悔しかったけれど、その後の人生のためには良かった。もし春夏連覇をしていたら、勘違いをした人間になっていたかもしれない。負けた経験が今に生きている。

ー野球人生で心に残る失敗は?
(JFE東日本の主力として迎えた)2018年の都市対抗予選。負けた時は逃げ出したいぐらいの気持ちだった。翌日の試合も負けて、あの時は本当に苦しかった。当時は野手リーダーとして臨み、自分で責任を背負いすぎて自滅してしまった。すごく覚えている。

ー2019年には都市対抗優勝。その経験が日本一につながったのか。
間違いなくつながっている。自分が不調でも監督はずっと軸として使ってくれたが、力を出せなかった。年齢的にクビも覚悟していた中だったが、どうしてもこのままでは終われないと思い、監督に「またやらせてください」と直訴した。そういった中で迎えたのが19年。都市対抗予選を突破して本戦でも厳しい試合を何とか勝ち上がり、決勝では本塁打を打つことができた。そしてチームとしての初優勝を果たすことができた。

ーずっと苦しんでいたのは意外だった。
高校、大学、社会人で日本一になったから、そういう目で見られるが、自分の中では挫折が多く、苦しんだ野球人生だった。ただ、失敗してもやり続けたから最後に良い成績につながったのだと思う。決してエリートではない。だからこそ謙虚に生きなければいけない。当時の常葉菊川の森下監督が本当に謙虚な人だった。だから監督を見て学び、自分もそうあり続けたいと今も思い続けている。

ー野球選手として思い残すことは?
十分に各ステージで取り組んで、苦しかったが乗り越えられた自負がある。だから思い残すことはない。

ー野球で得た経験はどんな部分に生きているか。
一番大事なのは準備だと思ってやってきた。仕事も同じで野球とつながっている部分が多い。

ー昨年秋、今チームの県大会静岡高戦(掛川球場)を現地観戦した?
力があるなと思った。守備もそうだし、打撃も自信を持ってやっていた。

ー2007年のチームと比べてどう?
かぶる部分がある。投手も良い左投手だし、今回の選抜は期待している。

ー試合後、石岡監督と話はしたか。
どうだった?と聞かれて、力があると思ったよと。選抜出場が正式に決まった時にも「おめでとう」と連絡した。

ー母校の監督を同期の石岡さんがされていてることについて。
もちろん大変な部分は多いと思うが、母校のユニホームを着て監督として甲子園にいくのはうらやましい。

ー長谷川さんもいずれは指導者を?
チャンスがあればやってみたい。自分がやってきたことを伝えられればいいなと思う。

ー選抜に挑む選手へ伝えたいことは?
当時、自分たちの試合を見て常葉菊川で野球をやりたいと思ってくれた人は、たくさんいたと思う。だから、しっかり準備をしてはつらつとプレーし、自分たちのカラーを出してほしい。それを見て、また菊川に入りたいという選手が増えていけば。

ー調子上がらない選手はどうすれば?
状態が悪い中でもいつか訪れるチャンスのために万全な準備をするというのが一番大事。あとは自分のためにも悔いのないプレーしてほしい。高校野球は春で終わりではない。選抜で1試合でも多くやれば成長できるし、学ぶ部分が多いので夏につながる。

静岡新聞社編集局運動部がサッカーや野球、バスケットボール、ラグビー、バレーボールなど、さまざまなスポーツの話題をお届けします。紙面では紹介しきれない選手たちの表情や、ちょっとしたこぼれ話をお楽しみに。最新情報は運動部の公式X(旧Twitter)でチェックを!

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