2025年6月4日
河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

清水エスパルスのJ1での現在地と後半戦への期待


【サッカージャーナリスト・河治良幸】
J1リーグはシーズンの折り返しとなる第19節を終えたが、3年ぶりのJ1挑戦となる清水エスパルスは現在、7勝4分8敗の9位とまずまず健闘している。ただ、代表ウィーク前の節目となるアウエーのセレッソ大阪戦で、今シーズン初となる4失点を喫しての惨敗。ある意味で清水の課題を明確にする試合でもあった。

秋葉監督はセレッソ戦を「最高の形で入れたにも関わらず、自分たちで壊したゲーム」と振り返っており、ひとつ間違えればさらに失点していてもおかしくない内容だったことを認める。守備が崩れた要因は色々と考えられるが、ボールの失い方の悪さ、そこからのリカバリーでうまく対応できないまま、ゴール前まで持ち込まれてしまうことだ。技術的なミスもあるが、やはり相手の守備や周囲の位置関係を見ながら、いかに攻撃イメージを共有しながら、つなぐ、運ぶ、蹴るといった判断をしていけるか。そしてミスが起きた時の切り替えも鍵になる。

また中盤でのセカンドボールを相手に奪われるケースが多く、それが大きなピンチにつながってしまう傾向が、セレッソ戦で象徴的に出たところもある。ボールの予測はもちろん、相手ボールになると察知した瞬間の切り替えや相手コースの切り方などに甘さは見られる。結果的にVARチェックでオフサイドの判定に助けられたが、前半45分に高橋祐治のヘッドクリアを簡単に拾われて、住吉ジェラニレショーンがデュエルに負ける形で、相手FWラファエル・ハットンにゴールを揺らされたシーンは象徴的だった。

つなぎでイージーミスをしないことも大事だが、クリアボールからのセカンドをしっかりと取り切ること、いざ相手ボールになった時にすぐ守備体勢を作って簡単に破られないこと、そうした1つ1つを突き詰めていかないと、J1では簡単にやられてしまうということを知らしめられた試合でもあった。ボランチの宇野禅斗とマテウス・ブエノも攻守にアベレージの高いパフォーマンスは見せているが、セカンドボールやトランジションのところは松本山雅と天皇杯、6月15日にホームで行われるガンバ大阪戦に向けて見直す必要がある。

センターバックのところはJ1基準で見ると、強化が必要であることは明らかだった。もちろん高橋、住吉、蓮川壮大、羽田健人といった選手たちにも、それぞれ特長はあるが、セレッソ戦の4失点だけでなく、ディフェンスラインがさらされると、そのままなし崩しにやられてしまいやすい。もちろん高木践を加える形で3バックにすることで、多少その負荷を軽減することはできるが、相手のビルドアップに対して前からプレスがかからないと、4バックよりも後ろに重たくなってしまう課題を抱えている。

そうした観点からも、マテウス・ブルネッティの加入はかなり的確だ。1対1の守備強いだけでなく、左足のキックや前に持ち出していくドリブルなど、左サイドからの攻撃力アップも期待できる。このブラジル人CBが左CBに定着することができれば、山原怜音やマテウス・ブエノとの絡みで、左側から質の高いビルドアップを構築できそうだ。ポテンシャルに疑いの余地はないが、スロバキアの強豪ドゥナイスカー・ストレダの主力としてプレーした”もう一人の”マテウス”が、いかに早くフィットできるかは清水の最終順位にも少なからず関わってくるかもしれない。

4失点を喫したセレッソ戦でも、攻撃面は山原怜音の今季初ゴールとなる直接FK弾はもちろん、19歳のFW郡司璃来が今シーズン初登場で見事なヘディングシュートを決めるなど、ポジティブな要素もあった。ここまで日本人トップとなる8得点のエース北川航也をはじめ、乾貴士、松崎快、そこに怪我から復帰したカピシャーバが加わる形で、4枚のアタッカー陣は固まっているが、彼らに代わるオプションが不足していたのも事実だ。郡司のような選手が台頭することで、前線の競争が活性化されるだけでなく、勝負のカードも充実する。

秋葉監督はまず残留というのを目標の最低ラインに置いているが、最終的に一桁順位でフィニッシュするチームのポテンシャルは十分に持ち合わせている。ただ、それも目の前の1試合、1試合でしぶとく勝ち点を取っていく先にあるものだ。二巡目となれば、相手も前回の対戦からアップデートしてくるだけに、秋葉監督の采配も大事だが、選手たちが謙虚に、しかし前向きにチームの絵を合わせていけるかが後半戦の命運を分ける鍵だろう。

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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