2025年9月11日

【沼津市出身のラッパー、ELIONEさんインタビュー】BACHLOGICさんと組んだ6枚目のアルバム「Just Live For Today」。無理のない自己肯定と音楽スタイルの拡張をどう獲得したのか

いろんな挑戦をしたという実感があります
-2年ぶりのアルバムです。リリースのペースについて、どう捉えていますか。ELIONE:前のアルバムが出た後に(東京・渋谷のライブハウス)WWWでワンマンライブをやって、シングル「Oh My Friend」を出して。その後に(ineedmorebuxとの共作)EP「As Usual」を出しました。2024年に入って、今回のアルバムにも収録している「わるもの feat. 唾奇」「LIFE SIZE feat. G-k.i.d」をシングルリリースして。(ABEMAで2025年1月から全6話が配信されたドラマ)「警視庁麻薬取締課 MOGURA」の撮影もありました。アルバムの制作とリリースはその後になったけれど、ずっといろんなことをしていたなという感触ですね。
-2作続けてBACHLOGICさんの全面プロデュース。前作にかなり手応えがあった、ということでしょうか。
ELIONE:BL(ビーエル)さんは自分の憧れで、目標としているプロデューサー。前作の後も、特に(確固たる)決意とかはないまま、 (定期的に)BLさんとスタジオに入らせてもらうバイオリズムになっていたんです。力みなく、かといって油断があるわけでもなくアルバムができていくという感じでした。
-前作以上にトラックがバラエティーに富んでいますね。オールドスタイルのヒップホップもあれば、トラップもある。ソウルやエイトビートのロックを感じさせる曲も入っています。この幅の広さは2回目のタッグだからこそでしょうか。
ELIONE:BLさんは、その時その時で自分が作りたいものを自然に作っているんだと思います。一方で「こんなサウンドで一緒にやりませんか」と話して作ることもあります。いろいろなサウンドの中で僕が選ばせてもらったものもある。いろんな挑戦をしたという実感があります。
-一番驚いたのはニュージャックスイングを取り入れた「We Don’t Care feat.Masato Hayashi,vividboooy 」でした。これまでELIONEさんの作品にはなかった要素だと思いますが、トラックを聴いてどう感じたのでしょうか。
ELIONE:ラッパーの前、DJをやっていたんで、ニュージャックスイングはすごく好きだったんですよ。この曲の「Every little step I take」というリリックは、ボビー・ブラウンの歌詞を引用しています。ニュージャックスイングといえば、メロディーがある軽快な曲が主流ですが、ここにバチバチのラップを乗せたらめちゃくちゃいいんじゃないかと思ったんです。BLさんに送ってみたら「めっちゃいいじゃん」みたいになって。
-会話している姿が目に浮かびますね。
ELIONE:(歌ものとラップの)ギャップのようなものはうまく作れたかな。ニュージャクスイングのリズムに乗るようなクラップを入れたりして、みんなが踊るイメージはうまく持ってこれたと思っています。
ラッパーとシンガーの境界
-言葉の乗せ方やリリックの組み立てがとても論理的ですね。今作はフロウとメロディーの境目がますますなくなっているように感じます。「No No」「愛をケチるなよ」「Band-Aid」といった中盤の楽曲はシンガーとしてのニュアンスが強いですね。ラッパーとシンガーの境界についてはどう意識しているのでしょうか。ELIONE:今回、メロディーがどんどんできていったんです。自然に、ですね。確かにフロウとラップの境目はなくなってはいるんですけど、逆に「バシッとラップ提示したいよね」みたいなところもあって。
-それが最初の曲(「Guess Who’s Back feat. BACHLOGIC」)と最後の曲(「By My Side」)に現れているんですね。
ELIONE:俺にはメロディーを使わないでラップしてたキャリアもあるし、ラップスキルでグルーヴも作り出せる。やっぱりそれがまずありきなんです。だから、ラップが引き立つその2曲は後から作りました。
-メロディアスな曲とのバランスを考えて作られたんですね。それを理解した上でお聞きしますが、今作にあふれるグッドメロディーはどのように生まれているんですか。
ELIONE:譜面は全く書いていないですね(笑)。自分でビートを手がけていたときはシンセサイザーで指引きしてメロディーを作ることもありましたが、今は基本的には鼻歌スタートですね。
-え、そうなんですか。
ELIONE:鼻歌から「ここ気持ちいいよね」っていうのを探して、それを出発点に引き延ばしていくというやり方が多いです。
-「No No」は、ソウルシンガーと呼ばれる人が歌っていてもおかしくないほど起伏に満ちたメロディーが耳を引きます。「Band-Aid」のリリックには同じ静岡県出身の久保田利伸さんの名前が出てきますが、影響があるんでしょうか。
ELIONE:めちゃくちゃ好きなんです。いつかお会いしたい。静岡でフェスをやってくれないかと思っています。自分を呼んでくれないかな、とも。
幸福は自分の中にしかない
-ELIONEさんのリリックは、常に無理のない自己肯定が感じられます。方向性や組み立て方について意識していることはありますか。ELIONE:表現することが全体的に、熟練したというか、うまくなっているかなとは思います。(前作)「So Far So Good」は「ちょっときついなあ」「うん、きついよね」みたいなちょっと弱々しいところがあったんですが、新作はそこからもう一歩出て「戦う」「やってみる」という気持ちを強く出しています。「乗り越える」「テイクオーバーする」というのが全体から伝わってくるように。
-「死ぬまではずっと狙う/諦めはほっときな/口に出したら全部本当になる」(「Rocket」)「俺が決めるLifesize/小さくまとまんな/誰がどうとかくだらない/Haterは口だけだ」(「LIFE SIZE feat. G-k.i.d」)といったリリックに顕著ですが、常に自分にベクトルを向けていますね。ブレていない。ご自身の中でそういう意識はありますか。
ELIONE:俺、ヒップホップが超・好きなんですよ。そんな自分が一番好きな曲を作っている。それがアーティスト、音楽家としての自己肯定につながっている。やっぱり幸福は自分の中にしかないんですよ。もちろん、成功者になってやろう、もっと稼いでやろうみたいなマインドはあるんですが、一方で稼いだ金で若い子たちがたくさん来るような場所も作りたい。最近はそんな感じで自分の中にある幸せについてよく考えるので、(リリックにも)色濃く出ているかもしれないですね。
-沼津に対しての言及がいくつかありますね。「リコー通り」「沼津のキッズ」という言葉も出てきます。7月27日の沼津夏まつりではゲリラライブも実施しました。上京して13年たちますが、沼津への愛着が絶えないのはどうしてですか。
ELIONE:自分が生まれ育った場所、というのもありますが、結局のところ好きな人たちがいっぱいいる街なんですよ。ニューヨークもそう。東京がやっと好きになってきたのもそう。会いたいやつがいっぱいいるんですね。
-なるほど。
ELIONE:25歳まで沼津で生活していて、そこで知り合った仲間たち、好きな人たちがたくさんいる。その人たちとは、ずっと連絡取り合っているし、会えれば会うし。東京に来てくれればご飯行くし、俺が静岡に帰れば会うし。沼津ってそういう街なんです。ゲリラライブをやったのも、地元出身のアーティストとして何かしたいと考えた結果です。
- 11月25日に東京のZepp Shinjukuでワンマンライブ「ELIONE THE LIVE 2025-JUST LIVE FOR TODAY-」が決まりました。
ELIONE:俺の中ではちょっと挑戦なんですよね。Zepp Shinjukuは沼津のラッパーでやったやつ、まだいないと思うんですよ。1時間以上歌うんで、超・気合入っています。
<告知>
■ELIONE THE LIVE 2025-JUST LIVE FOR TODAY-
日時:11月25日(火)午後6時半開場、7時開始
会場:東京・Zepp Shinjuku(東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワーB1F~B4F
料金:前売り6500円(1ドリンク別)
出演:ELIONE [ゲスト]CHICO CARLITO、G-k.i.d、JP THE WAVY、Masato Hayashi、Mummy-D(RHYMESTER)、vividboooy、AKLO、Fuji Taito、SALU
インフォメーション:/チケット(https://eplus.jp/elione/)ELIONE(https://lit.link/elione1987)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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