2025年9月12日

サッカージャーナリスト河治良幸
サッカー北中米W杯の地で日本代表が苦くも貴重な経験。関根大輝と鈴木唯人のアメリカ遠征

【サッカージャーナリスト・河治良幸】
“森保ジャパン”は北中米W杯の開催地となるアメリカ遠征で、メキシコとスコアレスドロー、さらに中2日でスタメン11人を“総替え”して臨んだアメリカ戦は0-2の敗戦となった。関根大輝(スタッド・ランス)と鈴木唯人(クリスタル・パレス)にとって、9ヶ月後の北中米W杯でのメンバー入りへの大きなアピールのチャンスだったが、個人としても悔しさの残る結果になったようだ。
関根大輝、積極的に攻撃に絡むも…
.jpg)
静岡市生まれで、シズガク(静岡学園)育ちの関根は柏レイソルから今年の冬に渡欧した。所属クラブがリーグ・ドゥ(フランス2部)に降格したが、そのまま残留して新シーズンを迎えることになった。それでも招集された背景には、高井幸大(トッテナム)や町田浩樹(ホッフェンハイム)らセンターバックの怪我人続出があることを自覚している。「もうラストチャンスだと思ってプレーしないといけないし、この遠征にかける思いはすごく強い」と関根は語っていた。
本職は右サイドバックだが、現在のメインシステムである3-4-2-1において、右のウイングバックよりも3バックのワイドで勝負することになるというのは本人も自覚していた。ただ、メキシコ戦の後半15分にディフェンスラインの要である板倉滉(アヤックス)が足首の負傷で下がり、関根が投入された。「急で結構、緊張もしました」と関根は振り返るが、キャプテンの遠藤航などにポジティブな声をかけてもらったことで、スムーズに入ることができたという。
0-0の状況から、ただ守りに入るのではなく、積極的に攻撃に絡むことで持ち味を出そうとした。相手がセンターバックの退場で少なくなると、最後は伊東純也が右サイドからヘディングで落としたところに関根が飛び込み、ファウルを獲得した。「ああいうチャンスをモノにしないと、みんなが帰ってきた時に食い込んでいけない」という関根の意気込みを感じさせるプレーが見られた。
11人総替えのアメリカ戦「相手の特長は分かっていた」
そこから中2日のアメリカ戦で、森保一監督は11人総替えを実行。関根にも、スタメンのチャンスが回ってきた。日本と同じ3-4-2-1で来たアメリカに対して、立ち上がりは3バック中央の荒木隼人(サンフレッチェ広島)、ゲームキャプテンを担った左の長友佑都(FC東京)とともに強力なアタッカーを抑えて、攻撃では右ウイングバックでスタメン起用された望月ヘンリー海輝(FC町田ゼルビア)を生かし、チャンスと見れば相手陣内まで攻め込む姿勢を見せた。しかし、徐々にアメリカのペースになると。望月が右サイドを破られて、マクシミリアン・アーフステンのクロスボールをファーサイドのアレックス・センデハスに左足ボレーでゴール左隅に決められてしまった。
後半にはあまりやったことのない4バックのセンターを務めることになった。しかし、後半19分に、3人の選手を交代した直後に、自陣FKから速いリスタートで縦に破られて、エースのクリスチャン・プリシッチから絶好のパスに反応したフォラリン・バログンに、内側から背後を取られる形でゴールに流し込まれた。
「バログンの特長は分かってたんですけど、自分としては、そこを防げるうちに、走るライン取りをもうちょい外にできたかなっていうのは思いますし、もうああなって体入れられたら、正直もうPKになるようなあれしかなかった」と関根は悔やむ。
もちろん彼だけの責任ではなく、この時は選手間でうまく守備のビジョンを共有できていなかった隙をアメリカ側に突かれたが、関根はそうした状況も踏まえながら、自分の対応のところで防げていればという思いは強いようだ。
もちろんアメリカ戦もポジティブな要素はあったが、失点シーンを含めて、課題を感じる部分の多い試合になった。それでも、関根にとっては貴重な経験であり、ここからの成長に生かしていくしかない。戦うステージはフランス2部になるが、そこでリーダーシップを発揮しながら、圧倒的な存在感でチームを支えられるかどうか。他の選手よりもハードルが高いかもしれないが、クラブでしかるべきパフォーマンスを見せて、10月のシリーズでも代表に選ばれることを期待したい。
23歳鈴木唯人、成長の一端示した2試合

清水エスパルスから欧州に飛び立ち、デンマークのブレンビーからドイツ1部のフライブルクにステップアップした鈴木唯人は、メキシコ戦で終盤に投入されて、上田綺世(フェイエノールト)と町野修斗(ボルシアMG)の2トップの後ろで、佐野海舟(マインツ)と2シャドーを組む形に。得点こそ無かったが、前からの守備に貢献しながら、積極的にボールを触ってゴールに迫ろうという姿勢が見られた。アメリカ戦は良いコンディションで入れていたはず。
元ジュビロ磐田のFW小川航基(NECナイメヘン)の後ろで伊東純也(ゲンク)と2シャドーを組んだ鈴木は、3バック左の長友、左ウイングバックの前田大然(セルティック)と連携をとりながらインサイドのポジションをほぼキープ。ゴールの可能性を感じさせた。
しかし、前半30分に失点する前からアメリカにうまく日本のプレスを外されて、全体が下がったあたりから、鈴木が攻撃で輝くことが難しくなった。それでも前半36分には高い位置のパスカットから絶妙なスルーパスを出して、伊東による絶好機を演出した。
「センターバックが何回も中につけていく場面があったので。あそこは先読みせずに、そのまま立って、カットできる場面があるだろうなと思っていた」と鈴木。新天地のフライブルクでも強く求められているという前からの守備が、良い攻撃につながったシーンだった。
後半4バックになってから2列目の中央になり、まさしく攻撃の中心として反撃を狙ったが、佐野海舟(マインツ)と藤田譲瑠チマ(ザンクト・パウリ)の2ボランチがなかなかうまく機能していない状況で、鈴木としてもバランスが難しくなった。
ただ、全体として「やはり後ろ向きのプレーが失点後は多かったのかなと思います」と鈴木は振り返る。守備で後手に回るシーンも増える中で、後半14分には攻守の入れ替わりのところでセンデハスを引っ張ってしまい、イエローが提示されると、その3分後に南野拓実(モナコ)との交代で退いた。かなり不完全燃焼の内容だったと見られるが、所属クラブで「個人の成長は間違いなくできている感覚というか、充実している感覚がある」という成果の一端は出せたのではないか。
本当のサバイバルはこれから
今回はボランチとセンターバックに負傷者が多く出た中でも、シャドーは充実したメンバー構成だった。久保建英(レアル・ソシエダ)、南野、そして最初の発表では外れた怪我明けの鎌田大地(クリスタル・パレス)も追加招集された構成の中で、23歳の鈴木がアメリカ戦のスタメンを含む、2試合に絡むことができたことは“森保ジャパン”にとっても、個人にとっても大きな収穫と言える。ただし、日本は同時期に行われたU-23アジア杯のメンバーやチリでU-20W杯を戦うパリ五輪世代も含めて、タレントが揃っているポジションだ。ここからフライブルクでどこまでパフォーマンスを上げて、10月、11月のメンバーに入ってこられるか。そして攻撃面でスペシャルなものを発揮して、得点に直結するシーンを生み出せるか。本大会まであと9ヶ月、ここからが本当のサバイバルになってくる。
<河治良幸>
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。 サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。著書は「ジャイアントキリングはキセキじゃない」(東邦出版)「勝負のスイッチ」(白夜書房)「解説者のコトバを聴けば サッカーの観かたが解る」(内外出版社)など。
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。
サッカー