2026年2月17日

【島田市の浪曲師・広沢虎康さん】広沢虎造の芸を受け継ぐ貴重な存在。次郎長、石松…静岡県は浪曲題材の宝庫
(文・写真/アナウンスマイスター野路毅彦)

藤枝市出身で島田市川根町に住む「浪曲師」広沢虎康さん(56)。おととしから県内の高齢者施設を回り、毎月口演する。普段の仕事は郵便配達だが、日本浪曲協会所属のプロで、浅草の寄席の舞台も経験済み。名人とうたわれ、最も売れた浪曲師・広沢虎造の芸を、ただ一人本格的に受け継ぐ貴重な存在である。
浪曲は、落語・講談と並んで日本三大話芸の一つだが、40代以下では全く分からない人が大多数だろう。でも「ちびまる子ちゃん」で、友蔵じいさんが浪曲の稽古をしていたのを覚えていないだろうか?「旅行けば駿河の道に茶の香り」と、うなっていたとしたら、それは、数ある浪曲の演目の中でも一番有名な「石松三十石船道中」だ。友蔵より五十くらい年下にあたる令和のお年寄りも、この話にはなじみがあるから、虎康さんはもっぱら「三十石船」を演じ、喜ばれている。
遠州森生まれの石松が幾度も「すし食いねえ」と放つところは、大ヒット浪曲の一場面として、昭和の中ごろは誰もが知る常識だった。だからこそ、大手のり店のテレビCMで、石松と同じく隻眼で着物姿の男が、帆船で乗り合わせた相手に巻きずしを勧めるアニメーションがパロディ-として成り立った。
浪曲の中で、石松がすしをおごるのは、船旅の最中「東海道一の親分は清水次郎長」だと、気分のいいことを言った江戸っ子と、差し向かいで酒を飲むことにしたからであり、「次郎長の子分で一番強いのは誰か」と続く石松の問いに、ずいぶん遠回りするけれど、「一人忘れていた。森の石松が一番強い」と、江戸っ子が思い出すからである。
江戸っ子は正面にいるのが当の石松だとは気づいていない。石松としては自身や一家の、ちまたの評判を探り聞いたのだ。インターネットを使ったなら、れっきとした「エゴサーチ」である。人の心理は昔も今も変わらない。浪曲の中身は決して古くさくない。

「特に静岡県の人は、浪曲にもっと親しむべきだ」と語る虎康さん。浪曲で一番人気のある登場人物は清水次郎長一家であり、活躍の主な舞台が東海道だからだ。しかも、その認知度は浪曲を通して、かつて全国的になった。虎康さんの口演は地道に続くが、懐かしさに頼らず、浪曲の魅力を今の世の中に広く知ってもらう手だてはないものかと苦悩する日々も続いているという。
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■広沢虎康オフシャルサイト(口演問い合わせなど)
https://torapro.wixsite.com/torayasu-hirozawa
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。










