2026年2月25日

【大学入学金の二重払い】複数の大学に合格した人が進学先以外にも入学金を納付する「二重払い」。文部科学省も解消に向けて動き出した。受験生と大学の双方が納得できる仕組みを探る必要がある。

(山田)入学金の二重払いとは、どういうことなんですか。
(川内)大学入試は私立の合格発表が大詰めとなり、国公立は前期日程がこれから始まるなど佳境を迎えています。二重払いとは、結果的には行かないことになった、いわゆる「滑り止め」などにも入学金を納付する状況です。
(山田)僕はこの状況、経験がなくて全く知らなかった。
(川内)親孝行ですね。長年にわたり放置されてきた問題とも言え、経済的負担の面から受験生の家庭を悩ませています。
入試日程が遅い難関私立大や国公立大の合格発表前に、一般的に合格発表から1~2週間以内に設定される納付期限の関係で、たとえ第1志望でなくても先に合格した大学に入学金を納める受験生が少なくありません。私の場合もそうでした。
根拠は最高裁判決
(山田)その入学金はどうなるんですか。(川内)多くの場合、入学しなくても返ってきません。大学に返還義務はなく、大きな根拠になっているのが、2006年の最高裁判決です。入学金について「入学できる地位を合格者が取得するための対価」だとして返還の必要はないと判断しました。
(山田)そんな判決があるんだ。
(川内)大学側から見ると、早期の納付と入学者数の確定で、新学期からの大学運営を円滑に進めたいという目的があります。後に触れますが、大学経営が厳しい中で重要な収入源でもあります。
(山田)ホテルやレストランでは、キャンセル時期にもよりますがお金が返ってきますよね。
(川内)確かに。なぜ入学金はそうならないかという声もあります。
(山田)ありそうですね。
日本だけの現象との指摘も
(川内)世界的に見ると、高等教育へのサポートが手厚い欧米などでは入学金は珍しいとのことです。韓国は関係する法律を改正し、ここ数年ほどで大学の入学金を廃止しました。「主要国で入学金があるのは日本だけ」との指摘もあります。(山田)日本だけの現象なのか。
(川内)昨今の物価高で家計が圧迫され、複数の学校や学部を受験すれば、交通費や宿泊費も大きな負担になります。特に地方の人の首都圏での受験は大変でしょう。文科省の調査では、2023年度の私立大の入学金の平均額は24万806円でした。
同年度の大学入学者の23・5%が入学を辞退した大学に入学金を納付したと推計しています。全国大学生活協同組合連合会の新入生調査では、辞退した大学に納付した平均額は約26万円でした。
(山田)行かなくても26万円か。高いな。
(川内)近年は「年内学力試験」の広がりなど入試の多様化で、併願した複数の大学に合格して入学金を支払うケースが増えていることもあり、二重払いへの改善を求める声が高まっています。超党派の国会議員連盟も動き始めました。
(山田)「年内学力試験」って何ですか。
(川内)年内入試には「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」がありますが、それを学力試験で実施することです。関西では以前から行われていて、首都圏では東洋大などが始めたことで話題になりました。
文科省はこれまで認めてきませんでしたが、昨年大学入試要項を改定し、小論文や面接などと組み合わせる場合は可能としました。
(山田)なるほど。
文科省は軽減検討を通知
(川内)文科省はこうした状況を受け、昨年6月に全国の私立大に入学金の負担軽減を検討するよう求める通知を出しました。二重払いの軽減や解消では、▽入学金の一部を先に納めて残りは入学を決めた後に納付する▽入学金の納付期限を複数回設定する▽代わりとなる入学者が確保できるなど辞退の時期が早い場合は納入済みの入学金を返還する―などを想定しています。
(山田)納付時期に余裕を持たせるということか。
(川内)文科省は昨年11月に2026年度入試を実施する私立大・短大836校を対象に、負担軽減の取り組みの実態を調査しました。
検討中を含めて「何らかの対応をする」としたのは25・1%だった一方、21・1%は実施予定なしと回答しました。「対応するかどうか方針を検討中」、いわゆる様子見の42・7%を含め、約6割が慎重な姿勢を示したと言えます。
(山田)ビジネスの視点で見ると、仕方ないような気もする。
入学しない合格者から355億円との推計も

(川内)入学金問題の解決を目指す首都圏の若者グループ「入学金調査プロジェクト」によると、都内の私立大120校の2026年度入試の募集要項を調べた結果、返還や納期延期といった負担軽減制度について記載があったのは、4校にとどまりました。
2024年に全国の私立大が実際に入学しない合格者から得た入学金収入は355億円に上ると推計し、「滑り止めビジネス」とも指摘しています。
(山田)リスナーからも声が届いています。「うちの娘の時も滑り止めの大学に入学金を払い、その後、国公立大に受かったけど返ってきませんでした」「二重払いありきで経営を考えるのは少し無理があるのでは」など。
(川内)入学金だけではありません。初年度納付金は授業料や施設費などを含め、かなりの額です。特に理系や医学・歯学系は実験などもあり高額です。
(山田)僕は芸術大だったのでお金が掛かりました。先生の中に有名な方がいたせいもあるでしょう。でもそれが、学生が集まることにもつながっています。
背景には厳しい経営環境
(川内)入学金を返還しない背景には私立大の厳しい経営環境があります。18歳人口の減少に伴う進学者減が今後、さらに経営を悪化させ、文科省の推計を基に2040年度には私立大の約4割で経営破綻の危険が高まるとの見方もあります。私立大は入学金や授業料、施設整備費といった学生からの納付金が収入の多くを占めていて、入学金収入の減少は授業料の値上げにもつながりかねません。
(山田)どこかで補うということですね。
(川内)こうした状況を踏まえ、日本私立大学連盟は6月ごろまでに対応をまとめる方向です。
国の修学支援制度では、低所得世帯や多子世帯を対象に入学金が減免されます。ただしこれは当然ですが1校のみです。支援制度や私立大への国の助成金の拡充を含め、日本の高等教育の負担をどう分かち合っていくかという大きな視点で考える必要があります。
(山田)いやー、難しい問題だ。
(川内)受益者負担という面で考えると、一義的に受益者は本人です。しかし研究成果などの恩恵の広がりを考えると、高等教育の受益者は国民全体とも言えます。
(山田)確かに。
(川内)経済的な理由で進路の選択が狭まることは、できる限り避けるべきです。一部には併願する国公立大の合格発表翌日まで、入学金の納付を延期できる私立大もあります。
個々の大学の生き残りにかかわる問題でもあり、受験生と大学の双方が納得できる入学金の仕組みの構築は待ったなしと言えるのではないでしょうか。
(山田)本当にそうですね。僕もこれから娘が大きくなって大学に行くことになったら、直面する問題かもしれません。その時、状況が改善していることを願っています。今日の勉強はこれでおしまい!
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