2026年3月7日

【浜野佐知監督「金子文子 何が私をこうさせたか」】 無政府主義者の金子文子が没後100年の今、「三位一体」の姿で立ち上がる
(文・写真/論説委員・橋爪充)

2025年のニューヨーク国際映画賞で長編映画部門最優秀監督賞、最優秀主演女優賞など5冠に輝き、インド・ドバイ国際映画祭でも最優秀外国長編映画賞、最優秀女性映画賞など五つの部門で選出された本作。
浜野監督が金子ふみ子名義の獄中記「何が私をこうさせたか〈新版〉」(春秋社)と出会ったのが1998年、映画化が動き出したのが2023年、右目の手術で延期したクランクインが2024年10月。文子の没後100年に当たる2026年にぴたっと映画公開に至ったのは、半ば奇跡というか、大げさに言えば文子の魂に導かれてのことのように感じられる。
関東大震災後の要人暗殺計画で大逆罪に問われた無政府主義者の金子文子は、栃木女子刑務所で再三にわたって転向を迫られる。だが、文子は強靱(きょうじん)な精神でこれに立ち向かう。逮捕起訴前に同居していた「同志」の朴烈との日々を回想しながら、自分の思想と短歌を原稿用紙に書き続ける。
劇場パンフレットを開いて驚いた。モノクロ写真の金子文子と菜葉菜さんは、よく似ている。文子の方が瓜実顔(うりざねがお)だが、鼻筋や意志の強さを感じさせる両目と眉はそっくりだ。菜葉菜さんが寄せている、ということもあるだろうが、浜野監督の「最初から(文子役として)決めていた」という直感はよく理解できる。
この映画の本質は、文子と菜葉菜さんの相似に、文子と浜野監督の相似が加わる点だ。1968年にピンク映画の業界に入り、1971年の映画監督デビュー以来、男性優位の映画界で300本超の作品に関わってきた浜野佐知という女性が、「文子に共鳴」(劇場パンフレットより)するのは必然と言えよう。
筆者は当然、生身の金子文子を知らない。だが、本作で菜葉菜さんが命を吹き込んだ文子には、強烈な説得力がある。死刑判決を受けて傍聴席に向けて万歳を繰り返す姿。恩赦で無期懲役に減刑された際の「ふざけるな。人の命をおもちゃにして」というたんか。天皇制を批判した上で「私は、私自身を生きなければと決心した」と宣言する顔。全て、モノクロ写真の文子がそこにいるような気がしてくる。
演技ではあるだろう。だが、浜野監督が現場で「過去の自分」を託しての文子像でもあるのではないか。金子文子、菜葉菜、浜野佐知という3人の女性が100年の時を超え、三位一体で「2026年の金子文子」を形作っている。これはまさしく、映画のマジックだ。
<DATA>※県内の上映館。3月7日時点
静岡東宝会館(静岡市葵区)
シネマイーラ(浜松市中央区)
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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