2026年3月28日

【水沢なおさん(長泉町出身)の新刊「こんこん」】テーマパークのキツネの「こんこん」が好き。たまらなく好き。一体これは、何の「愛」なのか
(文/論説委員・橋爪充 写真/写真部・久保田竜平)

2020年に第一詩集「美しいからだよ」(思潮社)が第25回中原中也賞に選出されて知名度を上げた水沢さんは、2022年に第二詩集「シー」(思潮社)、2023年には初の小説集「うみみたい」を出し、この間毎秋恒例の「しずおか連詩の会」に2回参加している。決して急ぎ足ではないが、一歩一歩、自分のペースで文筆家としてのキャリアを重ねている。そんな印象がある。
詩と小説を行ったり来たりする活動が続くが、水沢さんは常に「愛」を描いてきたと思う。根っこにあるのは友愛だったり、家族愛だったり、恋愛だったり、性愛だったり、いろいろだが、常に単独で「○○愛」と言えるものを表現しているのではなく、ちょっと逸脱したり、混ざっていたり、時にあえて見えにくくしていたりで、パッキリと名前を付けにくい感情である。
作品はどれも、水沢さんの内面にある「いとおしく思っているものへの情」が出発点になっている。それが、読み手に伝播する。例えば「うみみたい」は私小説ではないのに、水沢さんの頭の中をのぞいたような気分になる。ちょっとした居心地の悪さのようなものを伴う。
自分の中に湧き出る名前のない感情に、いとしさを覚える。書いていてちょっと恥ずかしいが、「こんな気持ちになる自分」が少し好きになる。肯定したくなる。水沢さんの詩や小説は、ちょっと特殊な読書体験を提供する。今回の表題作「こんこん」もそうだ。
和風コンセプトの「スプリングパーク」は国内でトップ3に数えられるテーマパーク。主人公のまどは真っ白い毛並みと青い目、水色の耳と鼻を持つキツネのキャラクター「こんこん」が大好き。どれぐらい好きかといえば、月に3、4回はパークを訪れ、こんこんが登場するパレードを1列目で見るため、開始まで4時間座って待つほど。キャラクターのみならず、着ぐるみの外から特定できる「中の人」もひっくるめて好き。そんなまどはあるとき、マッチングアプリで低身長の男性ひらくに出会う-。
「文藝」2025年春季号で初めて読んだ時は「ずいぶん『物語』に寄せてきたな」という印象だった。「うみみたい」に比べると、軸になるストーリーが太い。結末の着地点もはっきりしている。ただ、湧き上がる感情は変わらない。1990年代前半の永瀬正敏出演のCMのせりふ「「愛だろ、愛っ。」を口にしたくなる。
「好きになる」「愛情を注ぐ」ことは多かれ少なかれ狂気をはらむ。「好き」はひたすら穏やかな場合もあるし、社会規範を逸脱するほど激しい場合もある。「こんこん」は、この振れ幅の大きさを描く。こんこんと「一つになる」ことを夢想するまどは、殉教者のようにも感じられる。一体これは、何の「愛」なのか。読み手にも自問自答を促す作品である。
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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