2026年3月10日

【静岡理工科大・谷口ジョイ教授の「ある言語学者の事件簿」】3児の母と大学院生を両立。「遅咲きの言語学者」のエッセー集は「やる気を出したい人」にお薦め
(文/アナウンスマイスター・野路毅彦 写真/谷口ジョイ教授提供)

2026年2月末に発売された「ある言語学者の事件簿」。タイトルを見て、ガリレオシリーズの文系博士バージョンが出たのか!と早合点する人がいるかもしれないが、これはベストセラー作家の作品でもなければ、小説でもない。しかしながら「実におもしろい」こと請け合いのエッセー集である。
著者は遅咲きの言語学者だ。1児の母だった32歳で大学院に入学した。それだけでも珍しい存在なのに、在学中に第2子、第3子を出産している。しかも、そうしたタイミングで夫の勤務先が静岡県になり、東京まで遠距離通学した。胸が張って痛みに襲われ、新幹線のトイレでの搾乳は欠かせなかったという。
「ある言語学者の事件簿」を発刊した静岡理工科大の谷口ジョイ教授(右)
ある時、トイレの鍵をかけ忘れ、スーツ姿の若い男性に母乳を搾リ出しているのを見られてしまった。「トラウマに―」と著書にある。それは気の毒だった…。ん?「トラウマには、なっていないでしょうか…。」男性のその後を心配しているのか!どんなトラウマ?「俺、あれ以来牛乳飲めなくなったんだよね」とか?
当初は子どもを寝かしつけてから、夜に研究しようとしていたが「早く寝て!という『念』が子どもたちに伝わって、かえって寝ない」ので方針転換。子どもたちとともに眠りにつき、朝(夜中の?)3時に起きて、誰にも邪魔されない研究のためのゴールデンタイムを捻出することを発明した。ちょっとした非常識が、無理ゲーを攻略へと導く。
おととしから週に1度、早朝5時半からリモートで方言勉強会を開いている著者。何を隠そう、私も勉強会メンバーの一人である。教材は、静岡県の山間の言葉であることが多い。実は、ジョイ教授はもともと方言が専門ではなかった。海外で暮らす日本人の子どもが、どのように日本語を習得するかを調査していたが、コロナ禍で叶わなくなり、静岡市井川地区の研究に切り替えた経緯がある。
著者は長年のベイスターズファンだからか、望み通りにものごとが運ばなくてもたくましい。「思い通りでなくても、活動的に生きていれば人生は楽しい」と感じさせてくれるエッセーだから、「自己啓発本は苦手だけど、やる気は出したい」という都合のいいタイプの人に特にお薦めする。
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。










