2023年4月20日
SBSラジオ トロアニ

追悼、坂本龍一さん−−ガイナックスの第1回作品『王立宇宙軍 オネアミスの翼』音楽も手掛けていた

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は、2023年3月に亡くなられた坂本龍一さんが音楽を担当した『王立宇宙軍 オネアミスの翼』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

バンダイが初めて手掛けた映像もの『王立宇宙軍 オネアミスの翼』


1987年に劇場公開された『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は、後に『新世紀エヴァンゲリオン』などを作るガイナックスの第1回作品で、坂本龍一さんが映画音楽を手がけた3作目になります。

この映画に出資をしたのは、当時、映像事業に進出したばかりのバンダイでした。バンダイは1983年に初めて『ダロス』というOVA(オリジナルビデオアニメ)をリリースしたのを皮切りに、映像制作にお金を出し始めていたんです。

一方、80年代初頭、大阪にアマチュアフィルムメーカーのグループが誕生します。彼らは大阪で開かれたSFファンのイベントのときにオープニングアニメを作ったグループで、それがプロはだしの出来栄えですごく話題になっていたんです。そこには『新世紀エヴァンゲリオン』監督の庵野秀明さんや、ガイナックス社の創設者、岡田斗司夫さん、それから『王立宇宙軍 オネアミスの翼』監督の山賀博之さんなんかも参加していました。

その人たちがバンダイに企画を持っていったんです。最初はガンプラ(『機動戦士ガンダム』のプラモデル)でリリースされたMSV(モビルスーツバリエーション)が登場するアニメを作りませんかという話を持っていったんですが、これはNG。

その次に持っていったのが、別世界の地球の1950年代ぐらいを舞台に、そこで初めて有人宇宙飛行士になる若者の話でした。これが『王立宇宙軍』のスタート地点になります。

ただなにしろ、彼らはアマチュア制作グループなわけですよ。バンダイもそこで予算を全額出すなんてことはなく、進行に合わせてちょっとずつ予算が組まれるだけでした。そして配給会社が決まったところで、ようやくバンダイも会社として企画にゴーを出します。

こうして制作が本格的にスタートしたわけですが、そこで山賀監督が音楽は坂本龍一さんがいいんじゃないかと提案。ツテを探したところ、先程お話した通りバンダイが映像事業に参加していたことが生きてきます。その時に、YMOのメンバーの1人細野晴臣さんのミュージックビデオ(『Mercuric Dance』)を作っていたので、そのツテから辿って坂本さんに繋がり、音楽を依頼することになりました。

売れっ子の坂本龍一が手掛けたサントラ

当初坂本さんはクラシックっぽいイメージで考えていたようなのですが、山賀監督との打ち合わせで「もうちょっとロックっぽい方がいいだろう」ということになり、今のサウンドの方向性になったようです。

ただ坂本さん御本人が当時は『ラストエンペラー』(ベルナルド・ベルトルッチ監督)に出演していて、中国ロケに参加しなくちゃいけない。それで作業時間があまり取れないというので、坂本さんにはいくつかのテーマのスケッチを書き、何曲かは自分で仕上げ、残りは当時の若手ミュージシャンに仕上げてもらうという形になりました。さらにそこに若手の人が作った曲も加わって、音楽が完成しました。

そのとき、坂本さんが応援に頼んだ若手というのが、野見祐二さん、窪田晴男さん、上野耕路さんの3人。3人とも、それまで坂本さんと一緒に仕事をしたことがあるメンバーです。

窪田さんはこれ以降アニメに関わっていませんが、野見祐二さんはその後『耳をすませば』など、いくつかジブリ作品の音楽をやりますし、上野耕路さんも『ファンタジックチルドレン』という渋いアニメのサントラで名曲を書かれたりしている。そんな彼らもアニメ劇伴の仕事は『王立宇宙軍 オネアミスの翼』が最初だったんです。

初めてのアニメの音楽で、かつ坂本さんがとにかく忙しいという状況……。そういう意味では坂本さん的にはあまりいい思い出ではないみたいなんですが、でも、楽曲はやっぱりすごくいい。

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は、地球によく似た別の世界が舞台で、たとえば傘の開き方が我々の知ってる傘と全く異なったり、お金が円盤状ではなく棒状だったり、似て非なる世界の話を丁寧に描いているのが特徴です。

坂本さんの楽曲は、そういう全くの異世界に合う響きを持った音楽で、世界観の構築にとても貢献しています。映画も面白いですし、音楽もいいので、機会があればぜひ見ていただければと思います。

(2023年4月3日放送)

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