2024年5月30日
SBSラジオ ゴゴボラケ

【リニア中央新幹線の工事と水問題】岐阜県瑞浪市の井戸水位低下が大井川の水問題に与える影響は?静岡県知事選で生じた変化とは?静岡新聞論説委員長が解説します!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「リニア中央新幹線の工事に伴う水問題」。先生役は静岡新聞の橋本和之論説委員長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年5月28日放送)

(橋本)今日はリニア中央新幹線の話題です。JR東海はリニア中央新幹線のトンネル掘削工事を行っている岐阜県瑞浪市で、井戸など14カ所で水位の低下を確認したと明らかにしました。他に地下水に影響を与えるような工事は行われていないため、JRはトンネル掘削が影響した可能性があるとしています。

(山田)少し前のニュースですけど、静岡県民としてはちょっとドキッとしましたよね。

(橋本)そうですね。岐阜県のことですけど、静岡も大井川の水問題がありますので他人事ではないですね。5月26日に投開票が行われた静岡県知事選挙にも影響がありましたので、この問題を取り上げてみました。

(山田)改めて説明をお願いします。

(橋本)発端は昨年12月と今年2月中旬に、岐阜県瑞浪市の大湫町でトンネルの掘削中に湧水が出たことでした。JR東海は環境への影響を調べながら工事を行っているので、同時に井戸も掘っています。

(山田)トンネルを掘りながら井戸を掘って水位を見ているわけですね。

(橋本)地下水の水位が落ちないかを見ながら工事を進めているのですが、観測用の井戸で水位が低下したので、合計32カ所の水源やため池、個人の井戸を調べた結果、そのうち14カ所で水位が低下していて、一部には枯れてしまって使用できない状態になっていることがわかったということです。

(山田)映像でも出てましたけど、だいぶ枯れてしまっているところもあったようですね。住民の方は困りますよね。

(橋本)そうなんです。なので、岐阜県の古田肇知事が即座に反応して、原因を究明するようJRに求めました。

(山田)結構怒っていましたよね。

(橋本)瑞浪市の水野光二市長も住民の生活保障を最優先に対策を考えるよう求め、少しして斉藤鉄夫国土交通相も同じように原因究明を強く求めました。

大湫町は中山道の旧宿場町で、田畑も広がっている地帯だそうです。ちょうど5、6月は田植えの時期になりますから、農家の方などは特に不安が大きいのではないかと思います。

(山田)そうですよね。困っているでしょうね。

(橋本)さらに、瑞浪市の北西に御嵩町という町が接しているんですが、ここはリニア建設工事の残土の処分候補地になっていて、受け入れに向けた協議が行われています。隣接した自治体で水位低下という影響があったので、御嵩町も協議を一旦停止して原因や対策を報告するようJRに求めました。

(山田)トンネルを掘ったときに出た土を受け入れるにも、何かまた問題が発生するのではないかという。

(橋本)そういう不安はあるので、残土を受け入れることに賛成の声もあれば反対の声もあると思います。町は協議を通じてさまざまな問題点をクリアにしながら受け入れの判断をしていくのですが、今回こういう問題が発生したので先に原因を究明してくださいということになったということです。

地元の懸念を受け軌道修正せざるを得なかったJR東海

(山田)これを受けてJR東海はどういう対応を取っているんですか。

(橋本)今は代替水源の確保を進めています。井戸が枯れた家庭を上水道に切り替えるなどの対策を取っているそうです。ただ、JRは、5月14日にこの件を発表した時点ではトンネルの掘削工事は続ける方針でした。もう少しトンネルを掘り進めた上で、ボーリング調査を行って原因や影響を調べる方針だとしていました。

ところが、先ほど説明したような反応があったので、丹羽俊介社長は5月16日の記者会見でトンネル工事による影響の可能性が認め、トンネル掘削工事は中断してトンネル先端の水平ボーリング調査を実施して地質状況を詳しく調べるという対応を明らかにしました。

やはり原因を究明して対策をきちんと示すようにという強い要望が地元からあったので、軌道修正せざるを得なかったということだと思います。

(山田)ネットを見ていたら、静岡の人かどうかはわかりませんが「ほらね」という書き込みもたくさんありましたからね。

(橋本)高速道路なども同じですが、トンネル工事を行うと井戸や地下水などに影響が出ることは付き物なんです。その対策をどうするかということが大事なんですが、今回の場合は2月下旬に観測井戸の水位の低下を確認してからもトンネルを掘り進め、JRから岐阜県に報告が入ったのが5月に入ってからでした。

(山田)報告の遅れみたいなことがあったわけですね。

(橋本)先ほど、古田知事が怒っていたという話がありましたが、そういうこともあって不快感を示していたということです。

(山田)なるほど。

(橋本)静岡市の難波喬司市長も先日の記者会見で、「しっかりとやってもらわないと静岡でも会社の信頼度が下がり、市民に不安が広がる」とJRに釘を刺しました。

リニア工事に伴う水への影響は静岡県の過剰反応だと批判している人もいますが、リニア工事に伴う水問題は全国で知られた課題になっているので、今回のようなことがあると多くの人がそのニュースに関心を持つことは当然です。だからJRも対応を誤ることができないと思います。

静岡県知事選候補者の主張にも影響が

(山田)先日行われた静岡県知事選も、リニアを推進するとかしないとか候補者の主張がいろいろありましたが、やはりこの問題は影響があったということですか。

(橋本)選挙期間中に発表されたので、候補者の主張にも変化が生じました。当選した鈴木康友さんと、競り合った大村慎一さんは、2人とも水や環境の問題をきちんと解決した上でリニア整備そのものは推進するという立場を示していましたし、現在も示しています。ただ、この件があったので、少し慎重な物言いになりました。

JRに原因究明や説明を求めるということはもちろんですが、鈴木さんは川勝平太前知事のリニア問題での功績をそれまで以上に強調した感じがしました。大村さんもそれまでリニアの問題は1年以内にめどをつけるという方針を掲げていましたが、それを一旦保留してJRの報告遅れなどを批判していました。有権者もリニアの問題に関心を持っている方は投票行動に影響が出た可能性があると思います。

(山田)川勝前知事もリニアの問題で他県の人からいろいろ叩かれたりもしてましたけど。

(橋本)この件があって見方が変わった方もいるかもしれませんね。

(山田)当然ですけど、われわれの静岡県でも大井川の問題が言われていますが、これは大丈夫なんですか?

(橋本)先ほど申し上げたように、トンネル工事で水の影響が出るというのは想定されていることなんですね。それを事前にできる限り影響がないように調査や工法の検討を行うのですが、地下のことなのですべての地質や水脈を把握できるわけではありません。

大井川の問題も元々はJRの調査で水量が減少する可能性があるということを指摘されたことで浮上しました。大切なのはしっかりと調査を行い、できる限り影響が出ない工法で工事を進め、影響が出ることを前提にリスクに備える、影響が出た場合には速やかに状況を把握して対策を講じる、ということだと思います。

今回、井戸の水位低下があった場所は、地図を見るとよく分かるのですがトンネルのルートの真上に当たり、工事現場と井戸や水源がとても近い場所にあります。JRの説明では、大井川はトンネルを掘っている現場と、水を使う中・下流域が100キロも離れているので、今回とはケースが異なると言っています。

確かにそうなんですが、水源への影響は不確実性があります。最初に調べただけですべてわかるということはなく、地質構造などから予想とは違う影響が出たり、影響が大きくなったりということもあります。そのことはきちんと肝に銘じなければいけないと思います。特に大井川の上流というのは地質や地形が複雑な場所なので、不確実性がさらに大きいと言えるかもしれません。

岐阜県瑞浪市への対応が今後の試金石に


(山田)やってみなければわからないという部分もあると。

(橋本)モニタリングをすることになっていますが、水量に変化がないかなどをチェックした上で、影響が出たときにはどういう対応を取るのか、どういう状況になったら県に報告が行くか、というようなことをあらかじめ細かく決めておくことが必要だと思います。

(山田)だから、今回報告が遅れたのは評価的にはよくないですよね。

(橋本)そうですね。今回の大湫町の件でJRがどう対応するのか、しっかりと見ておくことが必要です。今回の件できちんと対応できなければ、大井川でも対応できるはずがありません。

その意味でも、今回報告の遅れがあったというのはJRに対する評価としてはマイナスです。今後は原因究明や井戸の水位が低下した住民の皆さんが困らないようにする対策をきちんと行い、挽回することがJRに課せられてる責任だと思います。

(山田)今日の橋本さんの解説をうかがって、リニアを必要としてる方がいるのはわかりますが、ここまでして必要なのかなと思ってしまったりもするのですが。

(橋本)水の問題は大事です。開発に伴うリスクはありますから、それをコントロールしながら影響を最小限にしていくことが大事です。

(山田)そうですよね。今後、新しい静岡県知事になった鈴木さんの動きも気になりますね。今日の勉強はこれでおしまい!

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