2024年10月19日

【劇団静火の第16回公演「遭難、」】 納得感の「よるべなさ」。それを実感した時の絶望

過去の経験は現在の行動の基本原理となる。良かったこと、悪かったこと。成功したこと、失敗したこと。以前うまくいったから、こうしよう。あのときダメだったから、今回はこうしよう。
過去の出来事やその時の感情は、自分の「今」を解き明かすツールにもなる。ああいうことがあったから、今こういうことをするんだ。この納得感は意外に大事。そうでないと、場合によっては何をしていいか分からなくなる。
ただ、納得感の根拠を形作る「過去の経験」の目撃者は、自分一人だ。それは客観的事実ではないかもしれない。いや、事実ではないことの方が多いんじゃないか。
劇団静火の第16回公演「遭難、」は、この納得感の「よるべなさ」と、それを実感した時の絶望が巧みに描かれていた。登場人物の1人が、最終幕で叫ぶ「私から原因、取らないで」は、まさにそのことを言っていると感じた。
本谷有希子さんの原作、櫻木アヤネさんの演出の本作品は、すがすがしいほどの「胸クソ演劇」。登場人物の5人中4人は聖職者たる教師だが、全員「たたけばホコリが出る」身である。ある生徒の保護者「仁科」の無軌道な行動も、実は何かを覆い隠すための方便に過ぎない。
特に前半の3幕で「里見」の悪党ぶりがどんどん明らかになっていくくだりが、とてもスリリング。演じ手の鳥居初江さんの悪魔的な瞳の輝きが、とてもいい。(は)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
エンタメ
おでかけ
静岡市
あなたにおすすめの記事
【創作ファクトリーぼんどしあたー主催「とあるバス停の利用者たち」】会心之一撃団、劇団静火、演劇集団Rubbishが、同じ舞台セットを使って異なる物語を展開
#おでかけ#エンタメ#静岡市#静岡市葵区#静岡市駿河区#静岡市清水区【「劇団渡辺」山崎馨代表、蔭山ひさ枝さんインタビュー】 7月公演で解散。21年間の足跡を振り返る。「劇団としては恵まれていたんだろうな」
#おでかけ#エンタメ#静岡市#静岡市葵区#静岡市駿河区【第70回浜松市芸術祭 はままつ演劇フェスティバル2024「オムニバス公演」】 容原静さん、演劇ユニットデッグデッグアー、会心之一撃団。満腹で帰路に
#おでかけ#エンタメ#浜松市#静岡市