2025年2月5日
河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

ジュビロ磐田の鹿児島キャンプでアピールが目立った江﨑巧朗、倍井謙、佐藤凌我の3選手をピックアップ

(左から)ジュビロ磐田の江﨑巧朗、佐藤凌我、倍井謙

【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジョン・ハッチンソン新監督を迎えたジュビロ磐田は鹿児島で約2週間のキャンプを行い、恒例の“静岡ダービー”で締め括った。

最終日はあいにくの悪天候で、清水戦も2点をリードされた2本目の序盤で中断、そのまま打ち切りになってしまったが、ハッチンソン監督は「こっちがボールを失った時の切り替えの局面とセットプレーは課題として残ったが、全体的によかったと思っている。試合が早く終わってしまったことで2試合目(3、4本目)が組めなかったことは残念だが、全体的には良いキャンプで終われた」と強調。「もちろん結果も気にするが 選手の理解であったり、パフォーマンスのところであったり、選手とクラブで非常に大きく高くステップができた」と総括した。

ハッチンソン監督が掲げるのはボールを握りながら、ボールを失った瞬間にプレッシャーをかけてボールを回収し、90分できるだけ長く、相手コートで試合を進めるスタイルだ。それをやり抜くためにはハードワークと走力がベースになること。ミスをしたり、うまくいかなかったりしても逃げずにやり続けること。周りと積極的にコミュニケーションを取って、攻守で同じ絵を描くことなど、やるべきことは多い。

キャプテンは投票でGK川島永嗣に


ハッチンソン監督は“磐田の象徴的な存在”とするキャプテンを選手投票という独自の方式で決めることを宣言し、その結果として川島永嗣が選ばれた。さらにキャプテンと共にチームをまとめる“リーダーシップ・グループ”は同じく選手投票で、松原后、松本昌也、上原力也、中村駿の4人に決定した。

ハッチンソン監督は彼らのリーダーシップに期待をかけつつも「個人としてもチームとしても、成長し続けられるプロセスが大事になる。選手にとって良いポジション争いになっている、非常にタフな状況だと思う。なので良い選手も、もしかしたら開幕戦のスタメンから外れてしまうかもしれない」と語り、現時点でポジションが確約されている選手は誰一人いないと強調している。

そうした中でも筆者の目線で、このキャンプを通して非常に良いアピールができたと見られる選手はセンターバックの江﨑巧朗、ウイングの倍井謙、FW佐藤凌我の3人だ。

CB江﨑巧朗の効果的な縦パス


江﨑はハッチンソン監督が重視する後ろからのビルドアップにおいて、ほぼミスなくパスを振り分けていた。機を見て縦に差し込むミドルパスは練習試合の藤枝戦や清水戦でも効果的だった。

磐田が目指すサッカーを象徴したのは、一度ボランチにショートパスを当てて、リターンをノートラップで右ウイングのジョルディ・クルークスに付けたプレーだ。こうしたシーンは昨シーズンのセンターバック陣にはほとんど見られなかったが、もし通ればクルークスがそのまま前向きに仕掛けてクロスや左足のシュートに持ち込むことができる。

守備面では177センチというセンターバックとしては小柄なサイズが心配される向きもあるが、ロアッソ熊本で攻撃的なサッカーの背後を守ってきただけあり、デュエルにも強く、空中戦もタイトにできている。

清水で言えば188センチのドウグラス・タンキのような大型FWとのまともな高さ勝負になると苦しい部分もあるが、それだけを理由にスタメン争いから外すほどのマイナス要素ではなく、現時点では左センターバックのリカルド・グラッサと並び、限りなくスタメン候補に近いセンターバックと見られる。

ウイング倍井謙「2桁取りたい」


倍井はJ1の名古屋グランパスからの期限付き移籍で、彼が描く成長曲線を考えても、今年は必ず結果を残さないといけないシーズン。大卒ルーキーだった昨年のようなジョーカー的な起用法であれば、J1でも十分に勝負できたはずだが、J2に降格した磐田にやってきたということはスタメンに定着して、圧倒的な存在になることを想定してのものだろう。

鋭くもテクニカルなドリブルと縦の推進力は言わずもがな、筆者が評価したいのはオフのポジショニングや守備など、戦術的なタスクをこなしながら、好機に自分の武器を繰り出すという意識が強く見られること。

その点について倍井に聞くと「今だったら三笘選手だったり、堂安選手だったり、久保選手もそうですけど、世界でやってる選手は当たり前に守備してるので。そこはやらないといけないなと、自分に矢印を向けていきたい」と話す。

磐田の中でも見ている世界が違う。タスクを当たり前にこなしながら持ち前のドリブルで違いを作ることに関しては心配いらないが、明確な結果に変えていくことに関しては本人も課題として意識しており「僕は2桁を取りたいと思っている」と言う。磐田のチーム成績にも直結してきそうだ。

佐藤凌我はトップ下で走りまくる


もう一人が、4−2−1−3のトップ下で起用されている佐藤だ。当初は同じFW登録のマテウス・ペイショットや2年目となる渡邉りょうとポジションを争うことも想定されたが、ここまで固定で“10番”とも言われる二列目の中央ポジションで使われており、佐藤も慣れないポジションであることを自覚しながら、前向きにチャレンジしている。

現在ライバルはJ3のギラヴァンツ北九州からレンタルバックした藤原健介やトップ昇格1年目の川合徳孟といった、ボランチもこなせる技巧的なMFで、本質的にストライカーの佐藤とはキャラクターが大きく異なる。

佐藤もそれを認めた上で「あのポジションで出てるからには、やらないといけないのは走ること。やっぱり健介や徳孟と違って、(自分は)すごく足元があって上手い選手ではないので、より走って、よりゴール前に顔を出して、得点に絡むプレーをいっぱい増やせればいい」と語る。

ハッチンソン監督も佐藤の成長について「もしかしたら慣れない、新しいポジションかもしれませんけれども、1試合目の鹿児島戦と(キャンプ最終日の)清水戦を比較すると、非常に大きな成長を見せている。特にボールを受けたときに、前を向けるというところで非常に良くプレーしています」と高く評価した。

ハッチンソン監督が求めるもの


昨シーズンのジュビロはJ1の戦いでボール保持率が低くなったことはある意味、仕方がないにしても、ベースとなる走りのところに関しては、「スプリントの数、ハイスピードランニングの数のところで、かなり低い数値を出していた」とハッチンソン監督が指摘する通りの問題が見られた。チームとして底上げしていくべき部分でもあるが、倍井や佐藤のように、基礎能力として持っている選手は重宝されていくのではないか。

目立った怪我人が出ずに終わった鹿児島キャンプを終えて、ここから地元の磐田で準備の最終段階に入っていく。ホームのヤマハスタジアムに水戸ホーリーホックを迎える開幕戦で、どんなスタメンになるかは楽しみだが、個としての評価だけでなく、組み合わせも大事になってくる。シーズン通して競争は続くというハッチンソン監督の言葉をリスペクトしながらも、まずは開幕スタメンに向けた競争に注目していきたい。

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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