2025年4月17日

【園村健介監督「ゴーストキラー」】 「ベイビーわるきゅーれ」がミステリートレインなら、「ゴーストキラー」は新幹線。高石あかりさんのアクションが光る

高石あかりさん主演、園村健介さん監督、阪元裕吾さん脚本。まるで「ベイビーわるきゅーれ」シリーズのスピンオフのような座組だが、後味は全く異なる。
「ベイビーー」シリーズがあちこちに途中下車して意外な着地点に連れて行くミステリートレインだとしたら、本作は終着駅まで一気に観客を運んで行く新幹線である。勧善懲悪の明快さは古き良き時代劇を彷彿とさせ、銃を使わない「スデゴロ」の格闘場面は俳優と製作陣の創造性の高さを感じさせる。少しだけ振りかけたホラー味も、本作のオリジナリティーを高めている。
大学生の松岡ふみか(高石)が道に落ちていた弾丸の薬莢を拾う。そこには伝説の殺し屋工藤英雄(三元雅芸)の無念が込められていた。幽霊の工藤に取り憑かれたふみか。工藤の手を握るとその能力が自分の体に宿ることを知ったふみかは、彼の成仏を助けるために反社会勢力に立ち向かうことになる。
殺し屋工藤の幽霊を体に入れたふみかを演じる高石さんのアクションが秀逸。最初の格闘場面では相手の男の手首をブラジリアン柔術の「モンジバカ」の要領で固めてから、テンプルに正拳を入れ、最後は掌底で顎先を打ち抜き昏倒させる。この間にふみか本人と工藤のせりふを交互に口にする。「格闘はシャープ、人格は定まらず」という、恐らくこれまでの映画史に参照先を見つけるのが困難だろう場面を見事に演じている。
ふみかが幽霊を体に入れることを是認せざるを得なくなる場面には、製作者側の強いメッセージが感じられた。社会的弱者としての女性、男性に虐げられる女性に力を貸すという「大義名分」を勧善懲悪の出発点にしているのだ。とある「クソ男」の「ヨガをする女と一人暮らしで猫を飼っている女は地雷」という発言は、いまだ社会にはびこる醜いマチズモを見事に表現している。殺し屋を体に入れたふみかの大暴れに爽快感があるのは、そうした価値観を根こそぎぶっ壊しているように見えるからだろう。
「ベイビーー」シリーズに通じる、コント的なやりとりも挟み込まれる。「死ね」「だから死んでるって」というベタな口げんかが特に印象に残った。
(は)
<DATA>※県内の上映館。4月18日時点
シネマサンシャイン沼津(沼津市)
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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