2026年5月22日

【マイク・フラナガン監督『サンキュー、チャック』】さまざまな制約の中で生まれたであろうコピー「ヒューマン・ミステリー」。確かにその通り
(文と写真=論説委員・橋爪充)

米国を代表する作家の一人スティーヴン・キングが2020年に発表した中編小説を、『アッシャー家の崩壊』(2023年)などで知られるマイク・フラナガン監督が映画化。2024年の第49回トロント国際映画祭で観客賞に選ばれた。
スティーヴン・キングといえば、映画化作品がかなり多い作家である。筆者が見たものを挙げると『スタンド・バイ・ミー』『ミザリー』『ペット・セメタリー』『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』といったところだが、実のところ『サンキュー、チャック』ほど薦めにくい作品はない。
つまらないという意味ではない。むしろその逆。個人的にはこれまで見たキング原作の映画の中で、恐らく最高峰だ。ちなみに2位は『ショーシャンクの空に』で3位は『グリーンマイル』である。こう書き連ねれば、キング原作の中でどういうタイプの作品なのか、ぼんやりお分かりいただけるのではないか。
映画のフライヤーに「ヒューマン・ミステリー」とあって、その通りだと思う。このコピーを書いた人は、ネタバレぎりぎりのせめぎ合いでこの言葉をひねり出したのだろう。「ちょっと茫洋としているな」という印象を口にしたくもなる。だが、茫洋とした前情報だけで見に行くべき作品が存在することもまた、真実である。

作品は時系列をさかさまにした3幕構成だ。チャールズ・クランツ、通称チャックの人生をたどるが、それぞれを独立した短編として楽しめる。
1幕目。いきなり、地球が壊れかかっている。カリフォルニアが海に沈み、各国で津波や火山の噴火、山火事が相次ぐ。インターネットは遮断され、インフラは機能停止。「世界の終わり」を覚悟した人々は、自分が大切にしているものが何なのかを考え始める。そしてそれぞれ行動を起こす。ディザスタームービーの王道パターンだ。
2幕目。オープンエアのショッピングモールでドラム演奏が始まる。そこを通りかかったスーツ姿のチャックが、ドラムに合わせて踊り出す。華麗なステップを踏み、観客の女性を誘い出してデュオで踊る。この映画のクライマックスの一つだ。観衆がどんどん増えていき、喝采で幕を閉じる。古き良き時代の米国のミュージカル映画を思わせる。
3幕目。少年時代のチャックと、祖父母の物語。幼くして両親を亡くしたチャックを、祖父母は心血注いで育て上げるが、彼らが住む家には「開かずの間」があった。普段は優しい祖父が、こっそり部屋に入ろうとするチャックを血相変えて押しとどめる場面は、かなりのホラー味が感じられる。さて、この部屋に隠された秘密とは。
三つの話がどう関係しているのか。それが分かったとき、映画をもう一度最初から見たくなる。考えてみると、1幕目から「あれ?」と思うようなモノがこれ見よがしに配置されていた。
「生きる」をとことん肯定する映画であることは間違いない。「ヒューマン・ミステリー」。言い得て妙だ。
<DATA>※県内の上映館。5月22日時点
シネプラザサントムーン(清水町)
MOVIX清水(静岡市清水区)
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)
藤枝シネ・プレーゴ(藤枝市)
TOHOシネマズサンストリート浜北(浜松市浜名区)
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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