2026年3月10日

【源孝志監督「木挽町のあだ討ち」】 時代劇の顔をしたミステリーを見事に映像化。物語の説得力に最も貢献した俳優は…
静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は三島市のジョイランドシネマみしま、静岡市清水区のMOVIX清水、浜松市中央区のTOHOシネマズ浜松など県内各地で上映中の源孝志監督「木挽町のあだ討ち」を題材に。
(文・写真/論説委員・橋爪充)

最初と最後を静岡県出身者が担う
2023年に第36回山本周五郎賞、第169回直木賞をダブル受賞した永井紗耶子さん(島田市出身)の原作。エンドロールで流れる椎名林檎さん作詞作曲歌唱の「人生は夢だらけ」の編曲クレジットには、トロンボーン奏者の村田陽一さん(静岡市出身)。作品の最初と最後を本県出身者が担っている。これは間違いなく「しずおか映画」の一態様だ。
小説を読んだ方は先刻ご承知だろう。本作は時代劇を装ってはいるが、明らかにミステリーだ。「仇討ち」ではなく「あだ討ち」と表記する作品タイトルも、ミステリー要素の一部を担っている。
小説の読者にとっての懸念は、テキストメディアだからこそ成立しうるミステリーとしてのリアリティーが、映像化で説得力を失うのではないかという点だろう。筆者もそうだった。
「新生UWF」との類似点
結論から言えば、その心配は無用である。ミステリーとしての高揚が十分に感じられる。脚本や演出、美術、そして柄本佑さんや渡辺謙さんら俳優陣の演技の力が総動員されて「謎解き」の説得力に貢献しているのだが、ここではあえて二つのことを強調したい。
一つは冒頭の「あだ討ち」を果たす場面の見事な殺陣(たて)。「討つ側」の伊納菊之助役、長尾謙杜さんと「討たれる側」の作兵衛役、北村一輝さんの緊張感に満ちたやりとりに見ほれる。雪景色に飛び散る鮮血というコントラストは、空前のヒットとなった「国宝」のオープニングシーン同様、陰惨さより美しさを感じる。重要なのは「殺陣の見事さ」だ。禅問答のようだが、本当に見事な殺陣である。そうとしか言えない。
話がプロレスの世界に飛ぶが、この場面は1980年代後半に勃興した団体「新生UWF」の在り方にそっくりだ。プロレスに「リアルファイト」「勝負論」を持ち込んだUWFの試合を思い出す。「木挽町のあだ討ち」の世界で描かれる芝居小屋「森田座」での芝居は「UWF」以前のプロレスに例えられよう。一方で「あだ討ち」場面はUWF的色彩を帯びる。細かく説明するとネタバレになってしまうので、これ以上書くことができないのが悩ましい。
長尾謙杜さんに課された「役割」
本作のカタルシスの根幹。二つ目は誰からも慕われる菊之助を、長尾さんが見事に演じきったことだ。父のあだ討ちを宣言して美濃から江戸に出た菊之助は、芝居小屋の森田座に流れ着く。ここで暮らしたのは半年ほどのはずだが、菊之助はその間に、渡辺謙さん演じる戯作者の金治、瀬戸康史さん演じる木戸芸者の一八らに「こいつのためなら」と思わせている。
ここが本作のポイントで、もし「芝居小屋の面々が菊之助にほれ込んでいる」様子に白々しさが見えたら、物語は台無しだっただろう。そこで長尾さんだ。難役に課せられた役割を理解し、両性具有的な「蒼(あお)さ」を前面に打ち出し、「さまざまな事情を抱えたけなげな美少年」という立場を見事に演じきった。
実力派俳優がずらりと並ぶ本作だが、MVPは長尾さんではないか。
<DATA>※県内の上映館。3月10日時点
ジョイランドシネマみしま(三島市)
シネプラザサントムーン(清水町)
シネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)
シネマサンシャイン沼津(沼津市)
イオンシネマ富士宮(富士宮市)
MOVIX清水(静岡市清水区)
シネシティザート(静岡市葵区)
藤枝シネ・プレーゴ(藤枝市)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)
TOHOシネマズサンストリート浜北(浜松市浜名区)
TOHOシネマズ浜松(浜松市中央区)
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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