2026年3月15日

【ジョン・M・チュウ監督『ウィキッド 永遠の約束』】人は信じたいものを信じる。魔法使いの言葉が指し示すものは
静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は県内12館で上映中のジョン・M・チュウ監督『ウィキッド 永遠の約束』を題材に。
(文・写真/論説委員・橋爪充)

ブロードウェイミュージカルを映画化した作品の後編。前編の『ウィキッド ふたりの魔女』(日本は2025年3月公開)が2025年の第97回米アカデミー賞で10部門にノミネートされ、衣装デザイン賞と美術賞を獲得した。
オズの国をつかさどる魔法使い(ジェフ・ゴールドブラム)の欺瞞(ぎまん)を暴こうと「悪い魔女」の汚名を着せられながらもたった一人で戦い続けるエルファバ(シンシア・エリヴォ)、「善い魔女」としてオズの国民を元気づける役割を担う(担わされる)グリンダ(アリアナ・グランデ)。二人の「決別」と、心の奥底に残る親愛の情は表裏一体、コインの裏表のようなもの。最終的にどちらの面が出るか、というのが物語の焦点である。
『ふたりの魔女』のラストシーンに、二人が「あなたが幸せならいい」「それで幸福になれることを願っている」と言葉(歌)を交わす場面がある。グリンダは「魔法使いのそばにいれば、ずっと待ち望んでいたものが全て手に入る」と現状の清濁を併せ飲むよう説得するが、エルファバは自由を求め、重力を超えて(Defying Gravity)西の空に旅立つ。
『ふたりの魔女』は、こうしたやりとりの後、「無限の力」で現状変革への強い意思を表明するエルファバの声に、「Down!」(悪い魔女を倒せ)という分厚いコーラスが重なって「続く」となる。
この場面、「正しさ」を巡る葛藤という点で、昨今の日本や世界の政治を覆う「何を信じるか」の境界線が曖昧になっている状況を思わせる。
『永遠の約束』でも、こうした二人のスタンスがクローズアップされる場面があって、とても興味深い。エメラルドシティの宮殿で暮らすグリンダの前に、ほうきに乗ったエルファバが姿を現す。「私ならうまく陛下との間を取りなせる」というグリンダに従い、エルファバは魔法使いと面会する。ここで3人が歌い踊る「Wonderful」はこの映画のクライマックスの一つだ。
エルファバは魔法使いの詐欺的なやり方を責める。反論するように魔法使いはこんなことを言う。「皆に真実を言って何になる。人々はなぜ私を信じるのか。信じたいからだ。人は一度甘言を信じたら、それを何より大事にし、決して手放さない」
誰もがうなずくことこそ「真実」。魔法使いの弁は、まさにポストトゥルース的な考え方そのものだろう。映画ではその後「二人が手を携えれば勝てない戦いはない」という、前作ラストの楽曲「Defying Gravity」からの引用があって、エルファバもほだされかける。自分は何のために孤独な戦いを続けているのか。エルファバの強固な信念が揺らぐ場面は、ポストトゥルースという「甘美な物語」の強力な吸引力が見事に表現されている。
『永遠の約束』はプロパガンダの作用と、歯止めの利かない集団心理の高揚を描く場面もある。いつの間にかオズの報道官になっているマダム・モリブル(ミシェル・ヨー)が、自分より能力の劣るグリンダを「善い魔女」として国民の前に立たせ、自身を「黒幕」化する構図は、これまた一つの政治のメカニズムを見るようだ。
エルファバとグリンダの友情という大きなテーマの外側にある、「人々を動員する」手練手管が強く印象に残る。それは現在進行形であり、私たちの生活に直結するからだ。
<DATA>※県内の上映館。3月15日時点
ジョイランドシネマみしま(三島市)
シネプラザサントムーン(清水町)
シネマサンシャインららぽーと沼津(沼津市)
シネマサンシャイン沼津(沼津市)
イオンシネマ富士宮(富士宮市)
MOVIX清水(静岡市清水区)
シネシティザート(静岡市葵区)
静岡東宝会館(静岡市葵区)
藤枝シネ・プレーゴ(藤枝市)
TOHOシネマズららぽーと磐田(磐田市)
TOHOシネマズサンストリート浜北(浜松市浜名区)
TOHOシネマズ浜松(浜松市中央区)
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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