2025年5月16日
河治良幸

サッカージャーナリスト河治良幸

ジュビロ磐田を連勝に導いた縦の矢印。GK三浦龍輝とFW渡邉りょうの起用がもたらした効果


【サッカージャーナリスト・河治良幸】
ジュビロ磐田は15試合を終えたところで、勝ち点24で現在7位。首位のジェフ千葉とは勝ち点11、2位の大宮アルディージャからは勝ち点6の差はあるが、3連敗という苦しい時期を乗り越えて、アウエーの札幌戦で4−2の勝利。ホームに帰って藤枝との“蒼藤決戦”で終盤まで苦しみながらも、後半アディショナルタイムの得点により1−0勝利と、流れを引き戻してきている。

ジョン・ハッチンソン監督が「アタッキングフットボール」を掲げる磐田はキャンプからビルドアップの改善に努めてきた。相手の対策に向き合いながら構築していく流れの中で、繋ぐことが目的化してしまい、サッカー自体もスピード感が失われていたところがあった。3連敗の3敗目となった山口戦の前半は象徴的で、高い位置からプレスをかけてくる相手に対して、横パスとバックパスに逃げる傾向が強まってしまったことも確かだ。

今治戦で見せた変化


そこから意識的な変化が見られたのが、3連敗の後に迎えたアウエーの今治戦だった。試合としては2度にわたり2点のリードを奪いながら、相手に隙を与えて3−3の引き分けに持ち込まれるという磐田にとって残念な結果だったが、それまでとは違う相手の背後を狙う意識、チャンスと見ればダイレクトにゴールを目指す姿勢が見られたことは非常にポジティブだった。

中2日で迎えたアウエー2試合目の札幌戦は、遠征先の今治から直接の移動を強いられるタフな日程だったが、今治戦はベンチスタートだった倍井謙の2得点1アシストの活躍などで、終盤まで4−0のリードを奪うという見事なゲーム展開となった。

そこから相手がセンターバックを前線に上げるなど、5トップとも見られるスクランブルアタックにより2失点したことは課題となったが、この試合は倍井の2得点が示すように、背後を狙っていくチームの矢印が、そのままゴールという結果を導き出した形だ。

GK三浦龍輝の起用効果


ハッチンソン監督の戦術的なメッセージは選手起用にも表れている。特にGK三浦龍輝とFW渡邉りょうのスタメン起用は相手の背後を狙うという意識付けにつながっている。

三浦はルヴァン杯のFC大阪戦と清水戦で起用されてアピールしてきたが、リーグ戦ではアウエーの今治戦が初スタメンとなった。3失点したとはいえ、得意のフィードで前線に縦のボールを付けていく姿勢がチームのベクトルを相手ゴールに向ける効果は大きかった。

「やっぱり前の意識、ボールを保持するだけじゃなくて、ゴールを目指すために今年のチームはビルドアップをするというのがあると思う。自分たちのボールをどこで保持したいのかはもっと明確に、後ろが伝えるべきだと思っていた」

そう振り返る三浦は札幌戦でもマテウス・ペイショットから倍井に渡る4点目を導くフィードなど、自身の武器を存分に発揮。リーグ戦では7試合ぶりとなる勝利を支えた。そしてホームに戻った藤枝戦でも、後半アディショナルタイムに、ジョルディ・クルークスとの交代で右ウイングに入った川合徳孟をうまく使い、最後は倍井のPK獲得につなげた。

そうしたゴールに関与できていることに関しては「出来過ぎ」と謙遜するが、三浦は「ボールが繋がらなくても、それを見せることによって、相手が警戒するから他が空くよねというのが僕のイメージ」と狙いを明かす。

ハッチンソン監督は三浦の起用に関して「現時点では三浦がファーストチョイスで、非常にいいパフォーマンスができていると思っている。ただ、ここから彼がその座を維持できるのかどうか。他の3人も非常に龍輝の座を脅かすように頑張っている」と説明。三浦の特長だけを評価している訳ではないことを主張するが、磐田に必要だった前向きなベクトルを示すという意味で、打ってつけの選手であることも確かだ。

FW渡邉りょうの矢印


渡邉も相手の背後を狙うという矢印を向ける意味で、非常に大きな役割を果たしている。縦のボールを受ける仕事に関しては190センチのFWマテウス・ペイショットがスペシャリストではあるが、チームが前向きにボールを運べなかった中で、常に相手ディフェンスの背後を狙いながら縦のボールを引き出す渡邉の方が、高い位置からプレッシャーをかけにいく相手には適している。

また守備に関しても、渡邉がスタートから体力を出し惜しみすることなく前からプレスをかけていくことで、前半から磐田ボールになるシーンを増やせている。そうした流れが続くことで、相手を押し込んでハーフコートのような状況に持っていければ、本来のポゼッションを活用して連続性の高い攻撃に繋げることができるのだ。そうしたプレーは当然、体力をかなり消耗するが、渡邉としては「もう45分で替わるつもりで」やり切って、行けるところまで行くという割り切りがあるという。

「毎試合やり続けて、その強度を自分自身が長くしていくってことが、次の課題かなと。本当に毎試合しっかり積み重ねていけば」と渡邉。現在、FWとトップ下の両ポジションで起用されている佐藤凌我も「守備に関しては間違いなく、あれが基準だと思う。交代で入る選手もあれぐらいやらないといけないですし、誰がスタメンでもああやって行かないといけない」と語る。

いわき戦からの連戦、どう乗り切るか


現在の磐田はアタッキングフットボールが構築の初期段階をようやく過ぎたというところで、ここからベースのクオリティを引き上げながら、相手の対策をどう上回っていくか。前に急ぎすぎればポゼッション、後ろに重たくなりすぎれば、直線的にゴールを目指すダイレクトプレーの意識を強めるなどしながら、J2優勝、J1昇格という目標を成し遂げるために、勝負に向き合っていかなければいけない。

次のいわき戦も前からの激しい守備とロングボールを活用した迫力ある攻撃を強みとするチームで、フィジカル面もタフなゲームになることは間違いない。そういう相手に対して、どう試合を運びながら得点を取り、同時に失点を防いでいくのか。ハッチンソン監督も「確かにここ数試合、ダイレクトに攻めるところも増えてはいるが、常に相手がどう来るかによって、間につけたり、外に回ったりっていうところもある」と語るように、ただ単に縦を狙うだけでなく、相手を見ながらゲームを進めていくことが重要になる。

いわき戦から中3日でルヴァン杯のガンバ大阪戦、さらに中3日でアウエーの徳島戦と連戦が続く中で、どういう選手が次のチャンスを得て活躍するのか。怪我人も複数いる状況で、総力戦になってくるのは間違いないが、開幕から少しづつ選手起用の幅も広がってきているだけに、楽しみなところでもある。

タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。

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