2025年8月3日

妖怪って怖い?妖怪伝承から紐解く防災対策【静岡大学教育学部・藤井基貴研究室】
妖怪を知って自然災害に備える

(左から)研究室の萩原さん、新美さんと藤井准教授
静岡大学教育学部の藤井基貴准教授の研究室では、2011年の東日本大震災を機に防災教育を推進。子どもたちが楽しく防災を学べる講座を開催しています。2024年には防災教育の教材として紙芝居「なんかようかい?ぼうさい妖怪!?」を制作。
紙芝居は災害伝承を研究する小川日南さん(※小川さんは2025年3月に同大学院を修了)を中心に制作されました。小川さんは静岡に伝わる伝承を防災教育に活用する研究を進めてきました。日本では、昔から自然災害に対する不安や恐怖を妖怪に投影して語り継いできたと言われています。

紙芝居では妖怪を怖い存在ではなく、自然災害の危険を知らせる「ぼうさい妖怪」として描いています。小川さんは、災害に関係する妖怪を大きく2種類に分類しました。
河童はハザードの役割をする妖怪
一つは、地域に起こりうる自然災害を示唆した「ハザード」の役割。妖怪伝承が伝わる地域は、ハザードマップでも被災想定区域になっていることが分かりました。河童伝説がその例です。河童は水神信仰と結びつき、豊かな水源を象徴するとともに、大雨や洪水の脅威を表した妖怪でもあります。
河童伝説がある静岡市内を流れる巴川でも1974年の七夕豪雨をはじめ、度々水害が発生しています。例えば、巴川に架かる稚児橋には、こんな伝承が残っています。
稚児橋に伝わる河童伝承

静岡市清水区の入江地域と江尻地域を結ぶ稚児橋
その昔、徳川家康の命令により巴川に橋を架けた。江尻の宿にちなんで江尻橋と命名されることとなった。渡り初めの式を行おうとした時に、かねてから選ばれていた老夫婦がまさに橋に足をかけようとした瞬間、川の中から一人の童子が現れ、橋を渡りそのまま入江方面に消え去った。

渡り初めに集まっていた人たちは、あまりに突然のことであっけにとられたが、このことから橋名を江尻橋から童子変じて稚児橋と名付けたと言われる。なおその不思議な童子は巴川に住む河童だったとも語り継がれている。
地震を鎮めると伝わる“要石”

もう一つは自然災害から免れる「セーフティ(安全装置)」の役割。これには要石が挙げられます。要石とは、地震を鎮めると伝わる石です。古来、地震は地中に住む大鯰が起こすと信じられ、暴れる大鯰を要石で押さえつけ、封じ込めました。静岡市清水区では西久保の鹿島神社に要石が祀られています。

小川さんが静岡県の津波ハザードマップを確認したところ、鹿島神社は津波浸水想定区域を免れた位置だと分かりました。鹿島神社の要石にはこんな由来があります。
鹿島神社・要石の伝承
昔、一人の石工が石を割ろうとしたところ、石の穴から血が走り出した。それ以来、しめ縄を張り神石として崇敬されている。古書に「要石の根底深く図り知れず」とあり、昔からどんな天災地変にも微動だにしないと伝えられている。
今でも石工の「のみ」の穴跡が残っていると伝わる。

要石は鳥居の向こうにある木の根元に埋まっています。
<DATA>■鹿島神社
住所:静岡市清水区西久保509
※駐車場無し
妖怪伝承を防災へつなぐ
藤井准教授は「妖怪伝承を調べれば、記録に残っていない災害史が分かる可能性があります。それを教訓として防災に生かしていきたい」と説明。小川さんの取り組みを引き継ぐ後輩の萩原彩葉さんと新美育歩さんは「自分が住んでいる地域の伝承を知らない子どもたちが多いと思うので、紙芝居を通じて防災に興味を持ってほしい」と話しました。
お知らせ
子ども防災教室
藤井研究室も参加!開催日:8月16日(土)
会場:静岡県地震防災センター(静岡市葵区駒形通5-9-1
対象:小学生とその保護者
参加費:無料
締切:8月7日(木)(先着)
申込:静岡県地震防災センターのHPから
問合先:同センター
054-251-7100(9時~16時・月曜休館)
なんかようかい?ぼうさい妖怪⁉
紙芝居「なんかようかい?ぼうさい妖怪⁉」は静岡市に伝わる「稚児橋の河童」「沼のばあさん」「鹿島神社の要石」などの伝承を一つの物語にしています。紙芝居は、静岡市内の図書館で借りられます。<紙芝居問合せ先>
静岡大学
代表番号:054-237-1111
※この記事はシミズ毎日2025年7月27日号掲載記事を一部再編集し、掲載しています。
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