2025年8月21日
論説委員しずおか文化談話室

【静岡県立美術館の収蔵品展「絵から読む物語」】会場を2周しよう。物語がくっきり見えてくる

静岡新聞論説委員がお届けする静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市駿河区の静岡県立美術館で8月19日から開かれている収蔵品展「絵から読む物語」を題材に。

静岡県立美術館では現在、「これからの風景 世界と出会いなおす6のテーマ」と題した企画展を開催中。聴覚、触覚を総動員した新しい風景画の捉え方を提案するユニークな内容だが、それとは別にスタートした収蔵品展も、絵画作品との新しい向き合い方が主題になっている。

「絵から読む物語」は入口から順に、会場を2周するのがお勧めだ。出品された日本画の数々は、あえて作品名、作者名が伏せられている。自分もそうだが、キャプションを見て作品を見る、という鑑賞スタイルが定着している人は、ちょっと違和感があるかもしれない。

だが、ここではキュレーター(学芸員)の手のひらの上にあえて乗ってみよう。「物語絵」だから、何かストーリーがあるはずだ。幸い、その手がかりはちょっとだけ、示されている。

六曲一双、左右それぞれが幅3メートルほどある屏風の前には「ヒント」が添えられている。絵柄のクローズアップに吹き出しが付いていて、「明らかに身分が高い人物!」「狩りなのに動物じゃなくて、男を追いかけて落馬??」などと書かれている。狩りの最中に何ごとか起こったらしい。遠くに富士山が見える。と、言うことは…。

こんな思考で全ての作品を見て回る。日本史の知識をフル動員しながら、キュレーターからのヒントを頼りに、自分の「解」を固める。これが1周目。

12作品を見終わったら、その流れで物語の解説パネルにたどり着く。誰が描いた、どんな場面の絵なのかが詳しく示される。在原業平にまつわる、同じ場面を描いた2作品があったことを知る。

そして2周目。物語が頭に入った状態でさっき見た作品をもう一度見直す。見え方が劇的に変わる作品もあれば、そうでもないものもあるのが自覚できて楽しい。これは「実験」なのだろう。知識なしのまっさらな状態で、作者が分かりやすく描いたはずの「物語」をどの程度受け取れるか。

正直なところ、物語を説明された後に絵の前に立っても、筋書きが頭に浮かばない作品がある。しかし一方、物語の説明がなくても、おおよそ何の場面か察しが付く作品もある。作者も試されているが、鑑賞者である私たちも試されているのだ。誰に試されているか。キュレーターであろう。

(は)

<DATA>
■静岡県立美術館「絵から読む物語」
住所:静岡市駿河区谷田53-2 
開館:午前10時~午後5時半(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料(当日):一般300円、70歳以上と大学生以下と身体障害者手帳などの持参者は無料
会期:9月28日(日)まで

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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