2025年9月4日
論説委員しずおか文化談話室

【宮島未奈さん(富士市出身)原作「成瀬は天下を取りにいく」のコミック第3巻】成瀬あかりと島崎みゆきの漫才コンビ「ゼゼカラ」、解散の危機。小説にない「演出」も

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は8月15日に初版発行(奥付)された宮島未奈さん(富士市出身)原作の「成瀬は天下を取りにいく」のコミック第3巻(新潮社)を題材に。新潮社のウェブ漫画誌「コミックバンチKai」の2025年3~7月掲載分を収録している。構成はさかなこうじさん、作画は小畠泪さん。

第2巻の発行は6月15日(奥付)。その2カ月後に早くも第3巻が出た。物語としては、小説版「成瀬は天下を取りにいく」がコミックでも完結した。今回の表紙はオレンジ。第2巻はブルーだったので、静岡県内の老舗Jリーグクラブのイメージカラーをリレーしたように見える。

小説と同じように、主人公の高校生成瀬あかりと島崎みゆきの漫才コンビ「ゼゼカラ」の解散問題が焦点となる。司会を任された滋賀県膳所市の「ときめき夏祭り」のプログラムとして漫才を披露することになった二人。高校卒業後の進路は東と西に分かれるため、成瀬は「これが最後」との思いで演目を全うする。ところが。

無表情とされる成瀬は、ゼゼカラのことになると明らかに目の輝きが増す。小説版でも成瀬にとってのゼゼカラの「かけがえのなさ」は何度となく語られているが、小畠さんの作画はその点も忠実だ。

島崎とのちょっとしたすれ違いで浮かない顔をしていた成瀬が、周囲の大人の助言を得て、自分の成すべきことを見定めた時。島崎に対するわだかまりが消えうせた後、江州音頭の櫓を見上げて200年後の自分を思い描いた時。小畠さんの絵は、目の描き方一つで、微細な感情の揺れ動きを見事に表現している。

サブテーマとしては「成瀬の髪の毛問題」がある。高校入学時に丸刈りにし、以後伸ばしっぱなしにしている成瀬が、自分の頭髪をいかに制御するか。これについては主人公の顔を常に描く必要があるマンガならではの味付けがある。

前髪が顎の先まで届くほど髪が伸びた成瀬だが、小畠さんは作画担当者ならではの「演出」で、成瀬の顔の造作を際立たせる。どんな演出かは、コミックで確認してほしい。

(は)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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