2026年1月28日

【避難所運営と学校再開】日本の公立学校の約9割が避難所に指定され、震災など大規模災害時には「避難所運営」と「学校再開」という課題に直面する。劣悪な生活環境の要因にもなっている「学校避難所」をどう考えるべきなのか。

(山田)「避難所運営と学校再開」ってどういうことなんですか。
(川内)これまでの記者人生で1月というと、やはり現地で取材した31年前の1995年1月17日に起きた阪神大震災の記憶が強いです。特に印象に残ったのが、避難所となった学校で献身的に住民に対応する教職員たちでした。
(山田)実際に行かれたんですね。
(川内)現地に入ったのは確か発災から10日ほどたった時。災害時に学校が突き付けられる「避難所運営と学校再開」の事を当時の生ネタのルポで書き、ここ3年、1面コラム「大自在」でも取り上げてきました。今月の17日付でも書きました。
(山田)継続的に関心を持っているテーマということですね。
(川内)当時は教職員たちの献身的な振る舞いに「すごい使命感だな」という感覚でした。しかし、その後の東日本大震災、熊本、能登での震災で避難所となった学校や災害関連死が多発する状況を見て、「学校が避難所となっている日本の現状は、このままでいいのか」という疑問や「もし、そうしなければならないのなら、普段からどうすればいいのか」という思いが強まってきました。
(山田)分かる気がします。
学校の本務は教育
(川内)学校の本務は言うまでもなく「教育」です。しかし、公立学校の約9割が避難所という現状で、大規模災害時、教職員は自らも被災者でありながら、いや応なしに避難所運営の第一線に立たされることが予想されます。実際、阪神大震災の時はそうでした。子どもたちの安否も気になるでしょう。避難所は、基本的には地域住民による自治組織が運営するべきですが、特に発災直後で住民や行政の手が回らない時はそうもいきません。避難のストレスで食料配給を巡る小競り合いやけんか、電源コンセントの取り合い、飲酒が絡む問題なども起きます。
(山田)阪神大震災の時は具体的にどんな状況だったんですか。
(川内)ピーク時に32万人に達した全避難者のうち、約6割が学校に集中しました。「押し寄せる」というより、「流れ込む」ような感覚だったといいます。当時、私が発災から2週間後の学校再開を取材した神戸市長田区の小学校では、教職員は発災当夜から泊まり込み、食料分配などに当たりました。
職員室の机をつなげたベッドで仮眠する毎日で、「われわれがやるしかなかった」と語る教頭先生の目は寝不足のせいか、充血していました。
(山田)ご苦労が多かったことでしょう。
(川内)再開時にも住民約300人が講堂や空き教室に寝泊まりしていて、子どもたちと住民の共同生活の始まりという感じでした。
(山田)まさに、避難の場と学びの場が一体化している。
(川内)これまでの大規模災害で、教職員たちは「命を守る」と「学びを止めない」、双方への強い使命感を持ち、手探りで難局に向き合ってきました。教職員の資質とも言える、冷静さや中立さ、指導力や判断力は「頼れる存在」との受け止めにもつながっています。
(山田)どちらもおろそかにできないという思いだったんだろうな。
学校再開は子どもと地域の日常回復につながる
(川内)繰り返しますが、学校の本務は「教育」です。再開は子どもにとっても、地域にとっても「日常の回復」につながります。静岡県もこれらの点を踏まえ「できる限り早い時期に避難生活を切り上げましょう」と呼びかけています。(山田)子どもたちも元気になりそうだ。
(川内)そうですね。友だちと会って話をしたりするのは大切です。地域も学校が動き出すことで、日常に戻ったと実感できます。もちろん避難所を出るというのは行く先が確保されていることが大前提ですが、教育の場として尊重する姿勢は持っていただきたい。
災害救助法では、教職員は原則として7日以内、避難所運営に従事できるとされています。しかし、現実はそれでは済みません。東日本大震災の場合、学校から全ての避難者が退去したのが発災から5カ月後だったという報告があります。
(山田)5カ月もですか。
(川内)避難所になることは学校の早期再開を妨げ、子どもと地域の日常回復の遅れにもつながることを頭のどこかにとどめておいてほしい。
劣悪な避難所環境の要因にも
(川内)日本は地震大国でありながら、避難所の生活環境は「先進国で最低レベル」とも言われています。「体育館で雑魚寝」という状況は長らく変わっていません。この要因にもなっているのが、「学校避難所」であり、抜本的に改善するには避難所機能の多くを学校に頼っている現状を改める必要があるのではないでしょうか。避難生活で体調を崩して亡くなる災害関連死は、能登半島地震でも直接死の倍以上に上っています。(山田)確か、災害関連死という言葉は阪神大震災の時に知られるようになりましたね。
(川内)注目されているのが、ヨーロッパの地震大国・イタリアのシステムです。「イタリア式避難所」とも呼ばれ、国主導で備蓄しているトイレや風呂を備える大型テント、家族ごとのテントを公園や広場に張り、キッチンカーで温かい食事を提供する態勢が整っています。日本での実証実験では「まるでグランピングのような快適さ」という声もありました。
過去の経験から、長期避難を支える仕組みを官民で整備しているとのことです。
(山田)イタリア式は聞いたことがあります。グランピング並か。
(川内)日本政府は国際赤十字などが設定した1人当たりの面積やプライバシー保護などに関する国際基準「スフィア基準」の実現や、TKB(トイレ、キッチン、ベッド)の速やかな提供を目指していますが、現状はほど遠いと言えます。ちなみにTKBは48時間以内に整える「TKB48」が目標になっています。
(山田)「TKB48」は覚えやすい。
(川内)確かに学校は地域にたくさんあって場所も分かりやすく、大きく、造りもしっかりしています。給食設備なども有効利用できます。そもそも日本は平地が少なく、テントを張るスペースが少ないという指摘もあります。
(山田)うちの近くにも公園がいくつかありますが、さすがに多くのテントを張るのは難しい感じ。
早期再開のための体制が不可欠
(川内)現実問題として、当面は学校を避難所とする前提であるのなら、早期再開のための体制が欠かせません。計画作りや訓練など準備を徹底すべきで、まずは学校、地域、行政の日頃からの意思疎通が大切ではないでしょうか。役割分担についても話し合っておく必要があります。公立学校の約9割が避難所に指定されている一方、施設利用計画の策定は約4割にとどまるという調査結果もあります。熊本地震でも、地域が中心になって避難所が開設、運営できた学校、学校主体の運営を迫られた所、県外からのNPO法人などがイニシアチブを取るケースと、大きく3つのパターンがあったといいます。
(山田)日頃の備えなどで、差があったということか。
(川内)文部科学省は被災地外から教職員やスクールカウンセラー、文科省職員らを派遣し、学びの継続を支援する新たな枠組み「D―EST 」(ディー・エスト)の構築を進めています。
兵庫を皮切りに、被災地の避難所運営や学校再開などを支援する教職員らの「学校支援チーム」が全国5県に設置され、実際に能登半島地震ではそれぞれ独自に被災地に入り、子どもたちや教職員のメンタルヘルスなどを含め支援を実施しました。
(山田)なるほど。
(川内)11月に防災庁が開設されますが、教職員が教育活動や学校再開に専念できるよう、省庁横断で対応し、現地ニーズに即応する機動力ある枠組みにしてほしいです。
自治体の対応力には差があり、市町村任せにせず、国主導で進めるべきです。
(山田)リスナーから声が届いています。「すごく分かるんだけど、すごく難しい話」「学校とは別に専用の避難施設を作るのは大変だと思う。イタリアを目指すのは大切だが現実的にどうか」「最近の道の駅は避難所など、防災機能も持っています」など。
(川内)避難所機能を学校だけでなく、ほかの公共施設や民間企業などでシェアするという視点は、重要ではないでしょうか。
みなさんも避難所というとまず、学校が頭に浮かぶと思いますが、この「当たり前」について改めて考えてほしいと思います。教育現場が日常的に多忙である現実も理解していただきたい。
(山田)学校を避難所にすることについて、どのような課題があるかが良く分かりました。
「当たり前を、当たり前だけにとどめない」という姿勢で、この課題を考えたいと思います。今日の勉強はこれでおしまい!
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