
「何日間も痛みや苦しさに耐えなければならない状況」富士山遭難の現実... 救助経験30年以上の警察・山岳遭難救助隊の隊長が語る=静岡

世界遺産・富士山。夏の開山期間中は絶景と達成感を求め、世界中から多くの人が訪れます。
一方、毎年9月から翌年7月までは富士山五合目から山頂にかけての登山道は「通行禁止」となります。しかし、その期間中にも無理な登山を試み、遭難する人は後を絶ちません。
200メートル以上滑落した死亡事故も...
2026年1月には単独で登山をしていた中国籍の20歳の男性が転倒して足首を骨折。2025年12月には友人と登山していた44歳の男性が200メートル以上滑落し、死亡しました。
今回、このような毎年のように死者が出るような厳しい環境で30年以上にわたり山岳救助に携わってきた静岡県警山岳遭難救助隊の坂上雅信隊長に、現場で目にする過酷な現実について話を伺いました。
<大西晴季記者>
2026年1月、富士山に訓練で入られたそうですが、どんな訓練をされたんですか?
<静岡県警山岳遭難救助隊 坂上雅信隊長>
1月28日から3日間、県警の山岳遭難救助隊と消防の山岳救助隊あわせて15人で富士山に入山しました。円滑な救助活動を行うため、アイゼン歩行などの冬山の基本的な歩行訓練や、実際に遭難者役を作って富士山から搬送する救助訓練を実施しました。
「スケートリンクの斜面を登る感覚」強風とアイスバーンの脅威
<大西記者>
その時の富士山の状況はいかがでしたか?
<坂上隊長>
入山した時は雲もなく快晴だったんですけど、六合目あたりから一気に天候が崩れまして、非常に強い風が吹き始めました。気温も手元の気温計でマイナス20度と厳しい環境でした。天候が一瞬で変わる富士山の厳しさを、若い隊員たちも身をもって体感できたと思います。
<大西記者>
冬の富士山の気象条件は、どのような特徴がありますか?
<坂上隊長>
富士山は独立峰で、森林限界を越えると木が一切ありません。そのため風を遮るものがなく、非常に強風になります。標高が高く、雪というよりも氷の斜面、いわゆるアイスバーン状態です。スケートリンクの斜面を登っているような感覚ですね。
<大西記者>
30年以上救助隊に所属されていますが、富士山での活動は「慣れている」という感覚はありますか?
<坂上隊長>
いえ、やはり30年以上やってますけど、特に厳冬期の富士山は常に慎重さが求められます。「二重遭難」(救助に向かった隊員自身が遭難する)のリスクが他の山より格段に高い山だと思っております。転倒や滑落の危険と常に隣り合わせです。
最低10人は必要 過酷さを極める冬の救助体制
<大西記者>
夏と冬で、富士山の山岳遭難救助の体制はどのように違うんですか?
<坂上隊長>
夏の開山期間中は登山道が明確で、状況によっては隊員2人でも救助が可能なケースがあります。しかし冬はアイスバーンの斜面となるため、最低でも10人以上の救助隊員が必要です。体制が不十分だと、遭難者を救助できないだけでなく、隊員自身が無事に戻れない危険があります。また、開山期は隊員が交代で常駐していますが、9月から翌年7月までは山小屋も閉鎖され、常駐拠点はありません。
<大西記者>
常駐拠点がないとなると、救助開始までに時間がかかるのではないでしょうか?
<坂上隊長>
通報が入ると、勤務中の隊員だけで足りない場合は、休日の隊員も招集します。準備を整え、車両で行けるところまで向かい、そこからは徒歩で現場に向かいます。救助開始までに数時間、場合によっては日をまたぐこともあります。特に冬は、現場到着から搬送、救急車に引き継ぐまでに非常に長い時間がかかります。遭難者にとっては、何時間、場合によっては何日間も、痛みや苦しさに耐えなければならない状況になります。
「119番ですぐ来られる場所ではない」救助隊が"厳しい環境"訴え
<大西記者>
危険なことはよくわかりました。そんな状況の中でもこの時期に富士山に登ろうとする人に伝えたいことはありますか?
<坂上隊長>
平地と違って「119番すればすぐ救急車が来る」という環境ではありません。少しでも天気や装備、体調に不安を感じたら、登っている途中ならぜひ「勇気ある下山」、登る前なら「登らない決断」を。救助する側にも大きなリスクがあります。富士山がいかに厳しい環境かを、ぜひ知っていただきたいです。
静岡県警は救助活動の様子をSNSで公開し「斜面はガチガチに凍結していて、スリップすると一瞬で滑落する可能性がある」「日によっては立っていられないほどの強風が吹き荒れ大変危険です」などと冬に富士山に登る危険性を訴えています。
「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA
あなたにおすすめの記事



富士山八合目付近で中国国籍の男性が救助求める 山岳遭難救助隊10人が現場に到着 風が強く男性とともに八合目付近で待機状態=静岡県警

「命を守る判断をしてほしい」富士山の開山前に山岳救助隊が訓練 富士宮口周辺で【富士登山シン時代】


「罰則制度を県に要請したい」閉山期間中の富士山で遭難相次ぐ...地元・富士宮市長が事故を未然に防ぐ仕組み作りの必要性訴える 警察は救助映像公開して呼び掛け=静岡
#富士宮市
耐寒訓練や救助技術確認…「春山シーズン」前に南アルプスで訓練 静岡県警山岳遭難救助隊が出発


「下山中に右くるぶしを負傷した」富士山八合目付近で転倒 消防に通報した中国国籍の男性を救助 静岡県警の山岳遭難救助隊が担架で搬送

高山病か 富士登山をしていた60歳男性が体調不良 山岳遭難救助隊が救助も命に別状なし=静岡県
