2026年2月23日

【鳥の劇場(鳥取市)の『十二夜』】旧幼稚園、旧小学校を活用した劇場を初訪問。SPAC俳優2人の出演作を堪能
(文・写真/論説委員・橋爪充)

「鳥の劇場」は静岡県舞台芸術センター(SPAC)と縁の深い劇団だ(正確に言えば、劇場の名前も「鳥の劇場」)。筆者は2024年初夏に静岡市駿河区の舞台芸術公園野外劇場「有度」で上演された、SPACと鳥の劇場の共同製作『友達』(安部公房原作)で、存在を知った。遅ればせながら。
芸術監督で演出家の中島諒人さんは、鈴木忠志さん(SCOT主宰)が芸術総監督だった2004年から1年半、SPACに所属していた。2006年に鳥の劇場を設立した後も、主催芸術祭にSPACを招いたり、鳥の劇場の作品にSPACの俳優を起用したりと、交流が続いている。
「演劇の都」を掲げる静岡県の県民としては、首都圏から離れた場所で地域に根ざした演劇の活動を実現している鳥の劇場は一度足を運んでみたい場所だった。SCOTの本拠の富山県利賀芸術公園でも遭遇した、「観劇のためだけにほぼ1日を費やす人たち」の中に身を置いてみたいとも思った。冬の新作と銘打ったシェークスピア作『十二夜』にSPACのたきいみきさん、阿部一徳さんが出演することも訪問の理由の一つだった。

開演は午後2時。午後1時過ぎ、劇場の最寄り駅であるJR山陰本線浜村駅に、40人乗りのバスが迎えに来てくれる。広々とした冬田のど真ん中を突っ切るようにしてバスは行き、15分後に劇場到着。鳥の劇場は廃校になった幼稚園と小学校をリノベーションして劇団の施設に活用している。かつての園舎に入ると廊下沿いの教室が事務スペースやカフェになっている。突き当たりのトイレは便器や手洗い場の水道の位置が明らかに低い。
開演15分前、劇場への入場が始まる。かつての小学校体育館に舞台と、ひな壇席が設けられていて、最大200人収容できる。この日はほぼ満席だった。いかにも演劇ファンといった雰囲気の方々だけでなく、小中学生も多い。全体の4分の1程度が未成年ではなかったか。徒歩圏の最寄り駅が存在しない、鳥取市の中心部から車で約1時間かかるこの場所に、これだけの人が集っている。劇団が積み重ねた20年の歴史に改めて思いをはせた。

『十二夜』は篤実な公爵オーシーノー(阿部さん)の、父と兄を亡くし悲しみに暮れる伯爵令嬢オリヴィア(たきいさん)への恋心を軸に、オーシーノーを慕うシザーリオ(女性であるヴァイオラが男装している)、シザーリオに熱を上げるオリヴィアという、ややこしくも愉快なストーリー。オリヴィアの執事であるマルヴォーリオ(阿部さんが1人2役)が、「お嬢さまは自分に恋しているに違いない」などととんでもない勘違いに陥り、話をさらにややこしく、さらに愉快にする。
実はこの勘違いの裏にはオリヴィアの叔父で飲んだくれのトービー、使用人のマライアの策謀があるのだが、単純思考のマルヴォーリオはそれに気付かない。阿部さんは素早い衣装替えで2役を交互に演じ、客席を大いに笑わせた。公爵が「男の恋心」の強固さを切々と訴えた直後に、マライアが書いた偽ラブレターで有頂天になるバカ男を演じるという離れ業。この振り幅の大きい2役に阿部さんをあてた中島さんにも感服した。
たきいさんは、グリーフショックで視野狭窄に陥る麗しい伯爵令嬢を好演した。男装の女性であるシザーリオに言葉を尽くして執拗に迫る場面は、切実さや滑稽さとともにもののけに憑かれたような尋常ならざる雰囲気も醸し出していて「これはたきいさんならではのバランスだな」と思わされた。

休憩を挟んで2時間40分の公演。帰りもバスが用意されている。JR鳥取駅まで約1時間。大きな旅行バッグをバスのトランクに預ける客もいて(自分もその一人だ)、3連休を山陰で過ごそうとしていることが分かる。劇団が地域の文化振興とともに交流人口増にも寄与できることを、身をもって確認した。
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■鳥の劇場『十二夜』
シェークスピア作、中島諒人演出
会場:鳥の劇場(鳥取市鹿野町鹿野1812-1)
出演:齊藤頼陽、中川玲奈、高橋等、安田茉耶、小菅紘史、田中千尋 、阿部一徳(客演)、たきいみき(同)、中垣直久(同)
今後の公演日:2月27日(金)、28日(土)、3月1日(日)※全て午後2時開演
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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