
「恐怖の防災から希望の防災へ」教え子の死を胸に..."生きる力"伝え続ける元教諭 生徒たちに背中を押されて踏み出した新たな人生の役割

シリーズ「東日本大震災15年の物語」。最終回の今回は、和田記者の取材です。
<和田啓記者>
私が仙台で被災したときに出会った学校の先生がいます。
先生は震災の経験を子どもたちに向けて発信し続けていますが、当初から前を向けたわけではありません。
何が先生の原動力になっているのか。そこには1枚の絵を通して伝えられた生徒たちのメッセージがあります。
「体育館に息子が帰ってきた」

<齋藤幸男さん>
「ここは遺体の仮安置所になった体育館です。最大約700人の方のご遺体がここに安置されていました」
防災士の齋藤幸男さん(71)。震災当時、避難所でもあり遺体安置所でもあった石巻西高校の教頭先生でした。
<齋藤幸男さん>
「校舎から通路を隔てて体育館、反対側は食堂。まさに、生きている人と亡くなった方の世界の境界がある中を生きる」
あの日、石巻西高校のある東松島市は10メートルを超える津波に襲われ1100人以上が亡くなりました。

指定された避難所ではないものの、地域に開放することを決めた齋藤さん。一方で、警察からは「遺体安置所として使わせてほしい」と依頼があり、自衛隊などによって遺体が体育館に次々と運び込まれたのです。
<齋藤幸男さん>
「当時2年生だった生徒がいて、母親が学校の事務室に『息子が体育館に帰ってきました』と言われて、言っている言葉の意味が分かった途端に言葉にならなかったですよね」
石巻西高校では在校生9人、4月から入学が決まっていた新入生2人の計11人が亡くなりました。
700人の遺体が並ぶ体育館で“人”を表すのは名前ではなく数字。安置番号205番は自分の叔父でした。
「今、この場では笑えない」全校集会でこぼれた本音
震災の翌年の2012年、校長となった齋藤さんは、全校集会で生徒に語りかけました。
<齋藤幸男さん>
「『在校生で亡くなった生徒はあのあたりかな』『自分の叔父はこっちあたりかな』と思っているうちに、話している途中で大きい声出して『今、この場では笑えない』って」
“ここで自分は笑えなくなった”
準備していた原稿にはない本音がこぼれたといいます。しかし、生徒たちにとってこの体育館は体育や部活といった普段の学校生活を象徴する場所。震災から2年が経った文化祭で、生徒から大人への明確なメッセージが発信されました。
700枚の写真が教えてくれた「希望の防災」

<齋藤幸男さん>
「オープニングの時に生徒たちにご覧くださいって言われたんですよ。お願いします」
齋藤さんの顔を表現したモザイクアートです。構成しているのは700枚の写真。生徒自身の自然な笑顔や、なんてことのない当たり前の瞬間を切り取り一つの作品に仕上げました。
<齋藤幸男さん>
「子どもらは楽しい生活を送りたいし、日常に戻りたいんだなと。それの象徴なんですよね。『先生笑えないんですか?』というようなメッセージだととったので、涙が出た」
当時、このプロジェクトリーダーだった生徒・片岡美紅さんは、「必死さをみんな隠しながら生きていたけど、前向きに生きて行こうとしていた大事な期間だったと思っていて、ありふれた今のものを残す。残しながら次につなげていく礎みたいなものにどうにかしていきたい」と語ります。
"生きる力"を身につけてほしい

<齋藤幸男さん>
「さあやってみよう。この街をつくっていくのは君らだもん。これくらいやれなきゃだめだ。25分スタート、はい、はじめ」
齋藤さんは全国の学校をめぐり防災ワークショップを実践していて、静岡県にも何度も足を運んでいます。
「市の毛布はあてにならない」
「書いといて、そうすると市役所も考えるから」
防災を切り口にして身につけてほしいのは“生きる力”です。
<齋藤幸男さん>
「恐怖の防災には限界があるんですよ。諦めない心と希望を捨てない心をつなげて伝えるためにここに来たんだよと。恐怖の防災から希望の防災を伝えるために。残りの人生の中でたくさんの先生たちに、子どもたちにその意味を伝えていきたい」
教え子の死を胸に、目の前の命に向き合うこと。笑えなかった先生が生徒たちに背中を押されて踏み出した新たな人生の役割です。
「生徒を育てるのは生徒、教師を育てるのも生徒、学校を作るのも生徒」
<和田啓記者>
700人の遺体が並んだ体育館で何かを完成させる意味を考えた時にモザイクアートも無意識に700枚で形にするべきだと生徒たちが感じていたということです。
齋藤さんはモザイクアートの経験から「生徒を育てるのは生徒、教師を育てるのも生徒、学校を作るのも生徒」と伝え続けています。
子どもたち自身のパワーを信じてこれからも齋藤さんは“希望の防災”に向き合います。


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