2026年3月20日

【静岡県作成の「アニメ聖地マップ」】『夏色キセキ』がない!なぜ『ゆるキャン△』『ラブライブ!サンシャイン!!』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『ちびまる子ちゃん』の4作品?
(文・写真/経営戦略室・天野大輔)

静岡県は、3月10日、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『ゆるキャン△』『ちびまる子ちゃん』『ラブライブ!サンシャイン!!』の4作品を収録した「静岡県アニメモデル地MAP」を公開しました。マップはA4サイズ4ページ(A3二つ折り)の構成で、計1万5000部を発行。作品ゆかりの地の施設や観光案内所などで配布されています。特設ウェブサイトもオープンしました。
静岡県スポーツ・文化観光部の公式Xアカウントの告知投稿は、約1900件のリポスト、40万インプレッションを記録するなど大きな反響を呼びました。リプライや引用リポストには、掲載作品のファンなどから好意的な声が寄せられる一方、「なぜこの4作品なのか?」「なぜ、あの作品が載っていないのか?」といった、選定基準に対する疑問や追加掲載を望む声も多く上がっています。
2025年5月マップの制作者を決めるプロポーザルが行われていた
マップは静岡県内各地の観光案内所等で配布されている
静岡県はアニメの舞台に恵まれた土地柄であり、強い思い入れを持つファンが多い作品も多数あるため、どのようなマップを公開したとしても、今回のような反応は起こり得たでしょう。本マップの制作経緯を遡ると、収載する作品については以前から方向性が示されており、公開時に突然この4作品ということになったわけではありません。2025年5月に「県内を聖地とするアニメ作品と連携した誘客事業に係るPRツール制作業務委託」という事業名で、参加事業者が企画提案を行うプロポーザルが実施されており、その段階で収載作品については『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『僕のヒーローアカデミア』『ゆるキャン△』『ラブライブ!サンシャイン!!』を含む5作品前後とされていました。
仕様書の段階ではヒロアカが想定されていた
マップの制作業務委託の仕様書
仕様書で指定のあった『僕のヒーローアカデミア』が外れ、代わりに『ちびまる子ちゃん』が採用された形です。ヒロアカこと『僕のヒーローアカデミア』は、作中の描写などから主人公たちが通う「雄英高校」が静岡県付近に所在すると推察される作品ですが、具体的な背景モデルが登場したことはなく、公式に静岡が舞台だと明示されたこともありません。過去に静岡鉄道グループとのコラボが2度実施された実績はあるものの、コラボ期間外にファンが作品の世界観に浸れるようなスポットがあるわけでもなく、今回の選定結果は当然の帰結であったと言えるでしょう。アニメIP(知的財産)の活用には、コンテンツホルダーごとに多様なスタンスがあります。こうした事業とは一定の距離を置くケースや、他社キャラクターとの同載不可といった制約が設けられている場合があったりと、マップ制作側の意向だけでコントロールできない事情も存在します。加えて、収載作品が増えればライセンス料などの諸経費も増大します。そうした背景やこれまでの地域連携の実績、具体的な誘客効果、さらには県内全域のバランスなどを総合的に勘案すれば、収載された4作品は、一定の妥当性を備えたラインナップであると考えられます。
SNSで溢れる「なぜあの作品がないの!」の声
放送終了直後の夏に下田市内で営業していたカフェ(2012年7月撮影)
県内各地に著名な舞台作品が点在している現状を鑑みれば、特定の作品が選外となったことに疑問の声が上がるのも、ファンの心中を察すれば十分に頷けることです。では、実際にどのような作品を望む声が多かったのか、県の公式Xによる告知ポストに寄せられたリプライと引用リポストを分析したところ、名前が挙がった作品は実に30作品以上に及びました。その中でも、特に多く言及された上位5作品は以下の通りです。『夏色キセキ』(2012年/下田市)
『ハルチカ~ハルタとチカは青春する~』(2016年/静岡市)
『リンカイ!』(2024年/伊東市)※県内未放送
『あまんちゅ!』(2016年・2018年/伊東市)※2期は県内未放送
『綺麗にしてもらえますか。』(2026年/熱海市)
最も多かったのは下田市を舞台とした『夏色キセキ』でした。2012年の放送当時、地元ではさまざまなコラボレーションが展開され、下田のまちは多くのファンらで賑わいました。放送から14年が経過してもなお、「静岡のアニメといえば『夏色キセキ』」という印象を持つファンがこれほどまでに存在することは、特筆すべき点でしょう。
県のマップと同日に発表!?『綺麗にしてもらえますか。』の聖地探訪マップ
『綺麗にしてもらえますか。』に登場する「日航亭 大湯」。現在は取り壊され更地になっている。
『綺麗にしてもらえますか。』については、現在まさに放送中ということもあり、舞台モデル地である熱海市には多くのファンがいわゆる聖地巡礼に訪れています。奇しくも静岡県がマップを公開した3月10日に、「熱海市聖地探訪マップ」の配布が発表されました。現在進行形で盛り上がりを見せている「旬の聖地」が県のマップに収載されなかったことに、違和感や疑問を抱いたファンが多かったものと推察されます。その他、6位以下では『僕のヒーローアカデミア』『Planetarian』(浜松市)、『苺ましまろ』(同)、『ガヴリールドロップアウト』(同)、『ぐらんぶる』(伊東市)、『星屑テレパス』(静岡市)、『勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。』(掛川市)といった作品の名前が挙がりました。
マップの次の一手は?
マップの所管部局の入る静岡県庁東館
本マップの制作に投じられた予算はおよそ800万円です。公金を用いた事業である以上、費用に見合う効果があったかについては、きちんと検証されなければなりませんし、その内容や展開手法についても、県民から多様な意見が出てしかるべきです。静岡県は「しずおかオシノミクス」と銘打った取り組みの一環として、県内ゆかりのアニメを活用した周遊促進に注力する構えです。今回発表されたマップを巡っては、作品の選定基準や実用性についてSNSなどでさまざまな意見が出ていますが、複数の作品を1枚に集約するという稀有な手法でアニメ活用の姿勢を鮮明にした点は、県内外へ「聖地・静岡」を強く印象づけるシンボルとして、一定の意義を認めることができるのでないでしょうか。今後、県民の声や多岐にわたる作品への期待を、いかに具体的な施策へと昇華させていくのか、その展開に注目が集まります。
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。










