
「骨の小さなかけらを拾って食べました。娘が私のところに帰ってきてくれると思って」熱海土石流災害の遺族 癒えない苦しみを法廷で証言=静岡地裁沼津支部

熱海土石流災害をめぐる民事裁判で、3月25日、原告側から遺族を含む5人が証言台に立ちました。遺族らは4年以上が経っても癒えない苦しみを法廷で訴えました。
2021年7月3日に発生し、28人が死亡した静岡熱海市伊豆山の土石流災害をめぐっては、遺族らが崩落した“違法盛り土”の前と現在の土地所有者や県、熱海市などに対して損害賠償を求めています。
裁判は、2022年の5月から始まってから3年半以上続いていて、現在、2026年7月の結審に向けて、証人尋問が行われています。
3月25日の証人尋問には、原告側から遺族を含む5人が証言台に立ちました。
「骨の小さなかけらを拾って食べました」
最初に法廷に立ったのは、娘(44)を亡くした小磯洋子さんです。
小磯洋子さんの娘は、小磯さんの家の近くのアパートで夫(55)と子ども(4)と一緒に暮らしていました。
小磯さんは、土石流が流れ込んできたときのことを鮮明に覚えているといいます。
<小磯洋子さん>
「(消防が)逃げてくださいと言って見たら土砂が来ていた。『そこに娘のアパートがあるんですけど、どうなっていますか?』と言ったら『あそこはもうありません』と。そこから地獄です。娘の夫と子どもは間一髪で助かりましたが、娘は土砂に飲まれてしまいました」
「2週間くらい経って、身元の確認をしてほしいと言われて行きました。対面しましたが、真夏の2週間埋まっていた娘はもう傷み始めていて、触ることも抱きしめることもできませんでした」
「朝一で火葬するからと言われて、お花を用意することもできずに火葬されました。骨の小さなかけらを拾って食べました。娘が私のところに帰ってきてくれると思って。親よりも娘が先に逝くというこの世で一番の地獄を味わいました」
「孫は4歳から母親のいない生活を一生送ることになってしまいました。住民の命と財産を守ることが行政の最大の使命であり、そこを怠ったことを認めていただいて、本当のことを話して心からの謝罪を望みます」
「(行政は)組織を守ることに終始していた」
2人目の証人は、土石流災害が発生した伊豆山地区の「赤井谷温泉組合」の理事長を務める原幸一さんです。
原さんが管理していたこの地区の温泉は、源泉から温泉館まですべて流されて消失してしまいました。
<原幸一さん>
「(発災の)2年前に、1千万円のコンプレッサーを(組合で)買ったところでした。温泉管を6月末に変えたばかりでしたが、3日後くらいに流されてしまいました」
土石流により、川の位置も変わってしまったため、もともとの源泉を掘ることも難しくなってしまったといいます。
温泉の復旧にかかるお金を計算したところ、1憶6400万円の見積もりとなりました。原さんは発災後の行政の姿勢について、憤りを露わにします。
<原幸一さん>
「(行政は)組織を守ることに終始されていて、我々被災者に寄り添った対応は感じませんでした。(裁判では)何が問題だったのか究明して、身を切るような姿勢を見れればと思ったが、残念ながら見られませんでした」
「母の形見になるようなものは何もなかった」
3人目の証人は、母(70)を亡くした田中彬裕さんです。
土石流は午前10時半頃に川の上流で発生し、それから土砂が流れたとされていますが、田中さんは午前11時10分頃に母親とテレビ電話をしていました。
一度、電話を切りましたが、その後、再度電話をかけたといいます。
<田中彬裕さん>
「電話がつながって一言、『助けて!』と言われました。電話は切れず、周囲のザーッという音がするだけで、急いで119番に連絡しました」
母親は発災から5日後、流された家屋の下に挟まっていたところを発見されました。
<田中彬裕さん>
「母の形見になるようなものは何もなかったです。(災害を)防げなかった方々には怒りを感じますし、直前で母親と電話をしていて『逃げろ』と言っていれば」
「息子が生まれてからの記録がすべて無くなった」
4人目の証人は、伊豆山に住んでいた女性(45)です。
発災当時、夫(46)と息子2人、父(71)の5人で暮らしていました。当時、出先から急いで家に戻り、目の前で土砂が流れていく様子を目撃したといいます。
<女性(45)>
「息子たちがどろっとした泥を避けるような感じで走ってきました。足は泥だらけで靴は脱げていました。上の方でバキバキという音がしたと思ったら、家の中を土砂が突き抜けていました。目の前で家の1階が破壊されました」
命を落とした家族はいなかったものの、高校3年生と中学2年生の息子は心に深い傷を負いました。
<女性(45)>
「上の子は土砂を見て吐いたり取り乱したり大変でした。下の子はケロッとしていたと思っていましたが、夏休みを過ぎたら、何も話さず学校にも行かなくなってしまいました。息子が生まれてからの記録がすべて無くなったことが悔やまれますし、喪失感が大きいです」
"母は病院に向かう救急車の中で息を引き取った"
最後の証人は、母(82)を亡くした鈴木仁史さんです。鈴木さんは、母親と弟(50)の3人で暮らしていました。
<鈴木仁史さん>
「近所にダンプカーでも衝突したんじゃないかという衝撃を感じました。庭にいた母から『外が変だよ』と言われて外に様子を見に行きました」
外に出た鈴木さんは、流れこむ土砂を見ました。
坂道の上から警察の人が誘導していたため、向かったといいます。
<鈴木仁史さん>
「家に母親がいるので戻りたいといいましたが、ちょうど大きな土石流が来て、慌てている様子の警察官が私の腕を掴んで、坂の上の方に引っ張られていきました」
翌朝、母親は家の中で、呼吸がある状態で発見され、消防により救助されましたが、病院に向かう救急車の中で息を引き取りました。
今も苦しみの中にいながらも“人災”だったと訴え続ける被災者たち。
しかし、裁判は長期化し、4年以上が経った今も責任の所在は明らかになっていません。
裁判の証人尋問は次回の4月21日が最後で、原告側から他の遺族ら9人が出廷します。裁判は2026年7月に結審する予定です。


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