2024年8月29日

【刑部芳則さんの新刊「昭和歌謡史-古賀政男、東海林太郎から、美空ひばり、中森明菜まで」】 船村徹の台頭エピソードが抜群に面白い

副題にあるような作曲家、歌手のみならず作詞家やレコード会社の関係者が、同時代の政治・経済・社会をどのように踏まえ、どのような楽曲を世に送り出したかを詳説している。
数多くのエピソードの中で、「演歌」を生んだ船村徹の存在感が際立つ。茨城出身の作詞家高野公男は栃木出身の船村に言った。「おれは茨城弁で作詞する。おまえは栃木弁でそれを曲にしろ。そうすれば古賀政男も西條八十もきっと抜ける」
これを機に生み出された船村の型破りな音の配置「破調」は、こぶしを入れた歌唱とともに、昭和40年代以降の「演歌」を形成する。巨人「古賀政男」の定型を破り、新しい音楽を生み出す過程の興奮が、生き生きと伝わる。(は)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。