2024年11月2日
論説委員しずおか文化談話室

【「ラウドヒル計画」大型公演「TRUST!!」のゲネプロ+勝山康晴さんインタビュー】近未来の「シズオカ」描く。「人は赤の他人のためにも情熱を注げるのではないか」

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡市民文化会館で11月2日夜に行われた舞台芸術プロジェクト「ラウドヒル計画」の大型公演「TRUST!!」のゲネプロから。公演は11月3、4両日に同会館で行われる。(リポート、インタビュー、写真=論説委員・橋爪充)

静岡市民文化会館を拠点に、いわゆる「地元民」による舞台作品を追求する同プロジェクト。2013年の立ち上げからここまでに今川義元、徳川家康といった静岡の足場を築いた武将、第五福竜丸事件、安倍川花火大会といったこの地域ならではのイシューをテーマに創作を続けてきた。

2024年の演目は「TRUST!!」と題し、近未来の「シズオカ」を描く。知事主導の観光政策が的中し、世界中から観光客が集まる街。だが、その繁栄の背後には20年前のある事件があったー。地元紙の女性記者を中心に、幼なじみの空手道場経営者、理系研究者をはじめとした彼女に関わる人々が、それぞれの「シズオカ愛」を携え、とある「フェス」に向けて束ねられていく。

総監督の勝山康晴さん(藤枝市出身)が手がけた脚本は、政治、経済、外交、安保など硬質なテーマをバックボーンにテクノロジー論、メディア論、統治論、文化論をちりばめた、多面的かつ重層的な内容。ただ、全編にわたって徹頭徹尾エンターテインメントに尽くす覚悟がみなぎっているため、客席にいると「涙あり笑いあり怒りあり哀しみあり」の優れたドラマにどっぷりつかることになる。幾度となく差し込まれる数十人による群舞も見どころの一つだろう。

「ラウドヒル計画」ならではの実名を交えた地元の地名ネタ、人物ネタも健在。てらいなく使われる方言にも耳を奪われる。1970年代、80年代、90年代のオルタナティブロック満載の選曲も効果的だ。クライマックスに用いられる、最近再結成が報じられたバンドのとある楽曲を、涙無しで聴くのはかなり難しいことだろう。

ゲネプロを終えた勝山さんに、短いインタビューを試みた。

-さまざまなテーマを内包する、しかし一本筋の通った作品だと感じました。創作に当たり、大切にされたことは何ですか。

勝山:二つあります。一つは「利他」ですね。人は赤の他人のためにも情熱をそそげるのではないか、ということ。今の世の中、互いに憎しみ合う、傷つけ合うニュースばかりじゃないですか。でも、だからこそ「意外に人って善人じゃん」という話を作ってみたかった。

-もう一つは。

勝山:ヒーロー、ヒロインになれなかった、あるいはなる気がなかった人たちを描く、ということです。ラウドヒル計画の大型作品はこれまで、ヒーロー、ヒロインの話が多かった。今回はそうじゃない。普通に生活している普通の人、そこに寄り添えるような人、というのが頭にありました。

-作品の設定は2044年ですが、2024年の世界情勢を踏まえた描写も多いですね。

勝山:11月5日にアメリカ大統領選挙があるじゃないですか。結果によって、世界の国々のそれぞれの位置が変わってくる。11月3、4日の公演だから、脚本を書く際には日付をかなり意識していました。

-約100人の出演者がいて、主要キャストだけでも30人近くいますが、それぞれのキャラクターが極めて明瞭です。こうしたことが可能になるのはなぜですか。

勝山:これは11年やっている強みでしょうね。(演じ手は)付き合いが長い人が多いので、それぞれの人となりや「この人のこういうところが面白い」というのが全部分かっている。新しいものを作る、となるととかく「人を変える」という方法が選ばれがちですが、僕はそういうやり方が好きじゃなくて。長く付き合っているから、互いの信頼があるから新しいものが作れると思っています。



<DATA>
■「ラウドヒル計画」大型公演「TRUST!!」  
会場:静岡市民文化会館 中ホール( 静岡市葵区駿府町2-90)
日時:11月3日午後3時開演、4日午後2時開演。開場は両日とも開演の30分前
入場料金:一般3000円、U-25(25歳以下)と障害者手帳持参の方1500円
問い合わせ:静岡市民文化会館(054-251-3751)




 

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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