2025年3月24日
論説委員しずおか文化談話室

【「ラウドヒル計画」エイトビート新作公演「LOVE&PEACE」】 なぜ戦争は起こるのか。エンタメを通じて答えの出ない議論に観客を巻き込む

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡市民文化会館で3月22、23の両日に3公演行われた男性8人組演劇ユニット「エイトビート」の新作公演「LOVE&PEACE」を題材に。23日午後5時からの公演を鑑賞。

ダンスカンパニー「コンドルズ」のプロデューサー勝山康晴さん(藤枝市出身)が総監督を務め、静岡の「地元民」が出演、制作を担う舞台芸術集団「ラウドヒル計画」は2013年に活動を開始。「エイトビート」は同集団の演じ手から選抜された、男性8人からなるグループ内ユニットである。2017年から活動している。

「グループ内ユニット」という存在を、勝山さんが好きな英米ロックの世界で考えたところ、トーキング・ヘッズにおけるトム・トム・クラブ、ニュー・オーダーにおけるジ・アザー・トゥーが思い浮かんだ。どちらも本家の「らしさ」を保ちながら、その一部を肥大、拡張させていた印象がある。活動の成果が、折に触れて本家に回収されていたのも共通点か。

エイトビートの6作目「LOVE&PEACE」(勝山さん脚本、河田園子さん演出)も、ラウドヒル計画の「徹頭徹尾シズオカ」という創作態度の延長線上にあった。その中で特に肥大化させたものと言えば「青臭さ」だろう。

本作は「なぜ戦争は起こるか」という答えの出ない問いかけをテーマにしている。正直なところ「男性8人が戦争についてあれこれ悩む」というモチーフは2025年の今、青臭くも見える。だが、世界の「前提」を揺さぶっているという点で質実剛健でもある。

ロシアによるウクライナ侵攻、イスラエルのパレスチナ自治区ガザへの空爆と地上作戦が続く。「なぜ戦争は起こるか」は、世界中の多くの人があきらめ、目を背けている問いだ。

演目は2025年3月、改修が決まった静岡市民文化会館を舞台に始まる。公演を控えた脚本家が、稽古の途中にセットから転落。気がつくとそこは、2125年の市民文化会館跡地だった。二分された世界は100年間戦争状態に陥っていた。静岡市は敵味方がぶつかり合う戦線のまさに最前線。脚本家は前線の兵士たちに戦争の発端を問いかける-。

なぜ戦争は始まって、いつまでも終わらないのか。この議論に見ている人を巻き込むために、タイムリープという使い古された(劇中でもそう言っている)設定が用いられ、コミカルなやりとりが連発され、ダイナミックな格闘シーンと群舞が展開される。そして「シズオカ」ならではのキャッチーなアイテムが象徴的に用いられる。全てが周到に用意されている。

ラウドヒル計画が拠点にしていた市民文化会館は新年度から改修工事に入り、再開は2028年度と伝えられている。「現在の市民文化会館の最終公演」をメタ的に作品に取り入れることは、予測の範囲内だった。世界の現況を取り入れるのも、勝山さんの脚本であれば必然と言えた。

一方で、ここまで大きな問いかけがあるとは思わなかった。勝山さんの諦念を超えた執念を感じたし、クライマックスにおける出演者8人のせりふの唱和からは、言い知れない切実さが伝わった。男性8人のユニットという「装置」は「青臭いメッセージ」に必要不可欠だったとも言える。

トム・トム・クラブは1991年のトーキング・ヘッズ解散後の今も活動を続ける。ジ・アザー・トゥーの1993年のデビューアルバム「ジ・アザー・トゥー&ユー」は2024年に再発売された。徒花的に見られがちなグループ内ユニットは、時に息が長いのだ。

そして、時に本家の本質をむき出しで提示する。ラウドヒル計画のエッセンスを凝縮したようなエイトビートの公演にも、同じ〝意志〟が感じられた。

(は)


<DATA>
■「ラウドヒル計画」エイトビート新作公演「LOVE & PEACE」
会場:静岡市民文化会館 中ホール( 静岡市葵区駿府町2-90)
日時:3月22日(土)午後3時、23日(日)午後1時、午後5時

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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