2024年12月3日
論説委員しずおか文化談話室

【第12回静岡書店大賞授賞式 】 小説部門に静岡市の岡田真理さん「ぬくもりの旋律」を選出

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は12月3日に行われた「第12回静岡書店大賞」の授賞式を題材に。(文・写真=論説委員・橋爪充)

県内の書店員442人と図書館員148人が選ぶ「第12回静岡書店大賞」。小説部門では静岡市出身・在住の岡田真理さんが書いた「ぬくもりの旋律」(河出書房新社)が選出された。

岡田さんのスピーチは次のとおり。

静岡県内ではスポーツライターの肩書で活動していますので、私のことを「野球かいわいの人」と認識してくださっている方もいらっしゃると思います。2年ぐらい前から作家としても活動していますが、自分自身「小説家」「作家」と名乗るまでにはちょっと時間がかかると思っていました。でも、今回このような素晴らしい賞をいただけて「小説家の岡田真理です」と自己紹介してもいいかなと、少しだけ思えるようになりました。

20年ぐらい前からスポーツの業界で仕事をしていて、今回の作品もスポーツ記者が主人公。私が関わっていたのは格闘技とプロ野球の世界ですが、いわゆる「ザ・男社会」の中で選手は一日一日が勝負なんですね。来年はここにいるか分からない選手たちと長く仕事をしていて、自分自身も歯を食いしばって頑張らないといけない部分もありました。

今回の小説を友人が読んでくれたんですが、「岡田さんが書いた小説だとは思えない」と。どうも「気が強い人」と思われていたようで「こんなに温かい物語が書ける人だと思わなかった」と言われました。

私は7年前に静岡に戻ってきたんですが、静岡は空気の流れが穏やかで、優しい人が多い。東京は刺激がたくさんあって、成長を感じられる場所で大好きではあるけれど、静岡の温かい、柔らかな雰囲気がこの小説を書かせてくれたんだなとあらためて実感しました。

だから、今回静岡の書店員さん、図書館員さんに選んでもらえたことが心からうれしいです。これからも皆さんに喜んでもらえるような作品を書き続けていきたい。この賞を糧にして明日からまた頑張っていきます。                   

授賞式終了後の囲み取材の一問一答は次のとおり。

-改めて受賞の感想を。

岡田:書店員さんと図書館員さんに選んでいただけたことがうれしいです。書店さんには各所ご挨拶にうかがいましたが、皆さんに歓迎してもらいました。そういった方々に選んでもらえたことがとてもうれしいです。

-スポーツ記者としての活躍されていたとのことですが、その現場で培った力を今回の作品にどう反映しましたか。

岡田:メジャーリーグを目指す選手を登場人物の一人として出しましたが、イメージするような選手たちがいるんです。彼らにもらったすてきな言葉、参考になるような考え方を少しずつ盛り込みました。今まではインタビュー記事という形でダイレクトに選手の言葉を届けていましたが、小説の登場人物に乗せることで、より臨場感を伴って伝えられたと思っています。

-スポーツ記事と小説。同じ文章を書くという仕事ですが、どんなところが違いましたか。

岡田:インタビューを書く時は、(読者に)その選手を好きになってもらいたいということを一番に考えて書いていました。選手が主役で自分は黒子、という感覚。もしかしたら小説も同じかもしれませんね。登場人物を好きになってもらいたいという気持ちがあって、私は作家だから黒子になって。いかに(読者に)愛してもらえるようになるかを考えていました。そこは共通するところだったかなと。ただ、小説はフィクションなのでいかようにも変えられる。そこが楽しくもあり、難しくもありましたね。インタビュー記事は選手が言ったことしか書けないので。

-登場人物が静岡出身ですね。静岡と今回の作品のつながりは。

岡田:生まれ育った町なので、静岡の素晴らしさを全国の皆さんに知ってほしいというのはすごくありました。野球の記者と選手を静岡出身にしたというのは…私はプロ野球静岡県人会というのをやっていて、地元の選手と活動をしているんです。静岡出身のプロ野球選手は身近な存在なので、登場人物に投影してみたいなと。

-書店員と図書館員に選んでもらったということについて、改めてどう感じますか。

岡田:たくさん本を読んでいて、すてきな本をたくさん知っている方々。読むプロフェッショナルとも言える方々に「この作品いいよ」と言ってもらえるのは作家冥利に尽きますね。もしかしたら、そこを目指していたのかもしれない。それをデビュー作でかなえられたのはすごくうれしいですが、一方で次回作のハードルは上がったと思います。これに満足することなく、次回作へ向けていい緊張感で取り組みたいです。

小説部門以外の受賞者は次のとおり。敬称略。

▽映像化したい文庫部門 植原翠「おまわりさんと招き猫 秘密の写真とあかね空 」(マイクロマガジン社)

トロフィーを受け取る植原翠さん(右)


▽児童書・名作部門 筒井頼子さく、林明子え「はじめてのおつかい」( 福音館書店)

▽児童書・新作部門
1位 手塚治虫原作/鈴木まもる文・絵「火の鳥 いのちの物語」(金の星社)
2位 鈴木のりたけ「大ピンチずかん2」(小学館)
3位 大塚健太作/かのうかりん絵「トドにおとどけ」(パイ インターナショナル )

受賞の喜びを語る鈴木まもるさん

ビデオメッセージを寄せた鈴木のりたけさん

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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