2025年10月15日

【「2025年しずおか連詩の会」参加詩人から(1) 川口晴美さん「やがて魔女の森になる」】身の回りの存在を、身体というフィルターを通じて言葉にする

2020年冬、横浜港に停泊していた豪華客船に日本中の視線が注がれていた。冒頭の「気がかりな船」は、恐らくその船の中からの言葉だ。明言されてはいないが。
閉ざされた空間に暮らす者が見たもの、聞いたものが、感情の起伏の少ない筆致で伝えられる。ちょっとした気分の高まりは得体の知れない不安の裏返しであろう。
わたしたちこそが病そのものなのだということがゆっくりと腑に落ちてくる
陸へ広がってはいけないから
繁殖も繁茂もしないように
ここで
阻まれているのだ
(「気がかりな船」より)
川口さんは身の回りに存在するあれこれを、自分の身体というフィルターを通して言葉にする。その言葉が像を結んで詩になる。その像は、私たちが生きている世界の常識にのっとった風景だったり、超現実的で私たちの世界のルールが通用しない風景だったり、いろいろだ。
「自分の身体というフィルターを通して言葉に」と書いたけれど、これはイコール、「詩人らしさ」である。筆者の考える詩人らしさそのものだ。川口さんは、実に詩人らしい詩人だと感じられる。
「やがて魔女の森になる」は、日々のよしなしごとを平易な言葉で丁寧につづる「ガールズワーク」「スイカタイフウ」「空の轍」から、時に悪意を込めた他者の視線にさらされる「寝台」への落差が楽しい。きれいに洗ってギュッと絞り、四つ折りにされた木綿のふきんが、えたいの知れない魔物につかれてみるみる広がり、部屋全体を包み込んでしまう。そんな風景を思い描いた。
(は)
<DATA>
■2025年しずおか連詩の会
会場: グランシップ 11階会議ホール・風
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
入場料:一般1500円、子ども・学生1000円(28歳以下の学生)※未就学児入場不可
日時:11月9日(日)午後2時開演
問い合わせ:054-289-9000(グランシップチケットセンター)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
エンタメ
暮らし
静岡市
静岡市駿河区
あなたにおすすめの記事

【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から③ 野村喜和夫さん編「しずおか連詩 言葉の収穫祭」】 生活空間に現出した途方もない一本道
#エンタメ#暮らし#静岡市#三島市
【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から⑤ 広瀬大志さん、豊崎由美さん「カッコよくなきゃ、ポエムじゃない! 萌える現代詩入門」 】 難解な現代詩「ベスト・ワン」とは
#エンタメ#暮らし#静岡市

【「2025年しずおか連詩の会」参加詩人から(3) U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS「たのしみ」 】大衆性と実験性が同居。肩の力が抜けた話し言葉の数々がクセになる
#暮らし#エンタメ

【「2024年しずおか連詩の会」初参加詩人インタビュー③ 柴田聡子さん】「自分が書いているものは『詩』に当てはまらなそうだなという体感はあります」
#おでかけ#エンタメ#静岡市
【「2025年しずおか連詩の会」参加詩人から(2) 水沢なおさん「うみみたい」】中原中也賞詩人の初小説集。さまざまな角度で「生殖」描く
#暮らし#エンタメ#静岡市#静岡市駿河区#長泉町
【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から(番外編)柴田聡子さん「My Favorite Things」 】「瞳と瞳に映る星が/同じだった頃を/だめもとで思い出す」
#エンタメ#暮らし#静岡市
【「2024年しずおか連詩の会」初参加詩人インタビュー② 佐藤文香さん】 「詩人として参加しようと思っているので俳句的なものを作るつもりはありません」
#おでかけ#エンタメ#静岡市
【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から④ 柴田聡子さん「Your Favorite Things」 】単語と「てにをは」が踊り、はじける
#エンタメ#暮らし#静岡市
