2024年10月4日

【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から① 佐藤文香さん「渡す手」】 ずっと眺めている
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。「2024年しずおか連詩の会」(11月3日に発表会)の参加詩人の作品を紹介する不定期連載を始めます。第1回は詩人佐藤文香さんの第29回中原中也賞受賞作「渡す手」(思潮社)を題材に。

夏の夜の街灯。地下鉄半蔵門線を待つ駅のホーム。マンションのエレベーターホール。世界を大股に駆けるのではなく、近傍をゆっくりと歩き、ある一点に視線を注ぐ。そのまなざしがストンと言葉になっている。
岸辺に伏せて置かれたボートの、淡水に褪せた青のペンキは、図鑑の翼竜の色
(「親友」から)
何気ない景色の、どうということのないものたちのありようが、佐藤さんの体を通して言語化されると、違ったものに見えてくる。佐藤さんのレンズの「引き」と「寄り」の精度が高いからだと思う。
つかまり立ちで見る
景色の小皺に
うっすらと狂う
しじみ蝶と しじみ蝶
公演後の生徒が
化粧を落としながら
声色を 戻す
(「森と酢漿」から)
ズームアップ、ズームイン。寄せたり引いたりをシームレスに行う手際の良さ。詩集全体に漂う親密な雰囲気は、場面をパキッと切り取ろうとせず「ずっと眺めている」かのような、作者の態度によるものだろう。(は)
<DATA>
■2024年しずおか連詩の会
会場: グランシップ 11階会議ホール・風
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
入場料:一般1500円、子ども・学生1000円(28歳以下の学生)
日時:11月3日(日・祝)午後2時開演
問い合わせ:054-289-9000(グランシップチケットセンター)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
暮らし
エンタメ
静岡市
あなたにおすすめの記事
【「2024年しずおか連詩の会」初参加詩人インタビュー② 佐藤文香さん】 「詩人として参加しようと思っているので俳句的なものを作るつもりはありません」
#おでかけ#エンタメ#静岡市【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から③ 野村喜和夫さん編「しずおか連詩 言葉の収穫祭」】 生活空間に現出した途方もない一本道
#エンタメ#暮らし#静岡市#三島市【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から② 巻上公一さん「METEOR DRIVER~メテオールのドライバー~」】 声とテルミン、境目が消えていく
#おでかけ#エンタメ#伊豆#静岡市#熱海市【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から⑤ 広瀬大志さん、豊崎由美さん「カッコよくなきゃ、ポエムじゃない! 萌える現代詩入門」 】 難解な現代詩「ベスト・ワン」とは
#エンタメ#暮らし#静岡市【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から④ 柴田聡子さん「Your Favorite Things」 】単語と「てにをは」が踊り、はじける
#エンタメ#暮らし#静岡市【「2024年しずおか連詩の会」初参加詩人インタビュー③ 柴田聡子さん】「自分が書いているものは『詩』に当てはまらなそうだなという体感はあります」
#おでかけ#エンタメ#静岡市【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から(番外編)柴田聡子さん「My Favorite Things」 】「瞳と瞳に映る星が/同じだった頃を/だめもとで思い出す」
#エンタメ#暮らし#静岡市【萩原朔太郎賞と静岡】静岡は現代詩王国だった!? 受賞者の多くを輩出する「しずおか連詩の会」とは
#暮らし#エンタメ#県内アートさんぽ#伊豆#三島市#長泉町#熱海市