2025年11月16日
しずおか文化談話室

【グランシップで「村田陽一ビッグバンド」】 村田陽一さん「地元」凱旋ライブ。最終曲「The Chicken」に感じた音楽の系譜

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は昨日、 11月15日に静岡市駿河区のグランシップで開かれた村田陽一ビッグバンドのライブを題材に。(写真=グランシップ撮影サポーター)
トロンボーン奏者であり、作編曲家であり、プロデューサーでもある村田陽一さんが、故郷の旧静岡市でビッグバンド編成のライブを行うのは初めてという。10月に静岡市清水文化会館(マリナート)で富士山静岡交響楽団との共演を果たしているが、「地元」という観点で見れば本公演はより一層「凱旋ライブ」のニュアンスが強い。

1963年生まれの村田さんはトロンボーン奏者として数多のバンドやセッションに参加し、リーダーとしてクレジットされるバンドやオーケストラも枚挙にいとまがないが、地元ではルーパーを使ったソロ公演に終始していた。

地元での初のバンド公演の契機になったのが2023年10月の第31回ハママツ・ジャズ・ウィークである。メインイベントのヤマハジャズフェスティバルには当初、渡辺貞夫オーケストラがラインナップされていたが、渡辺さんが体調不良で出演キャンセルとなった。公演は村田さん名義のオーケストラに変更され、スコアを書いた村田さんがサックスパートをトロンボーンで吹いて好評を博した。

このイベントの司会を務めていたのがSBSラジオの老舗番組「インビテーション・トゥ・ジャズ」パーソナリティーの今村政司さん。村田さんがオーケストラやバンドで県内公演を行ったことがないと知り、開催に向けて各所に働きかけたという。村田さんは今回の公演でこのようないきさつを語り、各所に感謝の言葉を述べていた。

村田陽一と、村田さんが選んだ名うてのミュージシャン17人のビッグバンドの演奏は、とにかくブラスセクションの音圧とキレの良さが圧倒的だった。「村田陽一ビッグバンド」名義のCDから「N.Y.U」「Bad Attitude」など、代表曲を次々披露した。
「You Don't Know What Love Is」では自身も入ったトロンボーン4本のリレー形式のソロで見せ場を作り、「Crawling Forward」ではレゲエやスカのような裏拍の心地よいグルーブを先導した。ジャズ的な4ビートはむしろ少なく、サンバやボサノヴァといったブラジルのリズムやアフリカのビートを取り入れた曲(村田さんは2010年にイヴァン・リンスともアルバム「janeiro」を作っている)など、パーカッションの岡部洋一さんをメンバーに加えた強みを生かした選曲だった。
特に心に残ったのは、デューク・エリントンが1934年に作曲した「ソリチュード」。村田さんが30年前、バンマスとして渡辺貞夫さんに演奏することを強く進言した一曲だという。納浩一さんが弾くアップライトベースの深く沈み込むような音の粒の中を、メランコリックな松本圭司さんのピアノが響く。暗がりに一筋の差し込むように入ってくる村田さんのトロンボーン。装飾音がサックスを思わせる。じんわりと聴く者の心を温める名演だった。
アンコールはカリスマベーシスト、ジャコ・パストリアスで知られる「The Chicken」。先週11月8日に富士市で行われたライブイベント「フジヤマフィーバー」で、地元のおはやしファンクバンド「吉原祇園太鼓セッションズ」も演奏していた曲だ。彼らは8月発売のCDにもこの曲を収録している。ジェームス・ブラウンのバンドで活躍したサックス奏者アルフレッド”ピー・ウィー”エリスが1960年代末に作った曲が、半世紀以上たった静岡県で2週続けて演奏されるとは。音楽と、音楽を愛する者の系譜を頭に思い浮かべた。

(は)

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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