2025年9月23日
論説委員しずおか文化談話室

【トロンボーン奏者村田陽一さん(静岡市出身)、母校静岡東高吹奏楽部を指導】「音楽に対する取り組みの順番を自分なりに考えてみよう」

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は、9月21日に静岡市葵区の静岡東高で行われた、トロンボーン奏者で作編曲家、プロデューサーの村田陽一さん(静岡市出身)による母校静岡東高吹奏楽部の練習指導を題材に。(文・写真=論説委員・橋爪充)

40年以上訪れたことがなかったという静岡市葵区川合の静岡東高に足を踏み入れた村田さんは「変わってないなあ」と何度も口にした。「東高を選んだのは(校風は)きっちりしているけれど、個人個人が自由に過ごせる学校だったから」と振り返った。

吹奏楽部の練習室に入ると、緊張した面持ちの部員が約40人。自己紹介もそこそこに「じゃあ、やってみてください」。エリック・オスタリング作曲の吹奏楽曲「バンドロジー」や英バンド「クイーン」の「ドント・ストップ・ミー・ナウ」などについて、さまざまなアドバイスを授けた。

「メロディーを吹きたかったからジャズの世界に行った」という村田さんは、吹奏楽部の練習についても提案を行った。

「音楽に対する取り組みの順番を自分なりに考えてみよう。例えば自分がやりたい曲をやってみて、その中でできないことを補う練習をする。それが個人練習じゃないのかな。(練習は)自分を律することも大事だけど、やりたいことをやるのが大前提。みんなで同じことをやるんじゃなくてもいいと思う」

印象に残ったのは「楽譜を疑う」という言葉。さまざまな編成でスコアを書いている村田さんは「特にポップスの曲は、ここに書いてあることが必ずしも正解じゃない」と話した。

基になった楽曲の音源を聴いてインスピレーションを得る。村田さんはそう提案し、クイーンの曲の主旋律についても「もっと、レガートに吹けばいいんじゃないかな」「1拍目の四分音符はもうちょっと長い方がいいんじゃない」などと細かく助言した。

直後の再演奏。明らかに曲の雰囲気がほぐれている。四角四面だったアンサンブルの表情がにこやかになった。「スコアは設計図。仕組みがわかるとよく理解できる。他の楽器どうやっているかをメモしておくのも大事」

筆者が初めて村田さんを認識したのは、1980年代後半の大所帯バンド「じゃがたら」(JAGATARA)だった。その後オルケスタ・デ・ラ・ルスや米米CLUBのメンバーにも名を連ね、1990年代以降はジャズ、クラシック、J-POPの壁を軽々と飛び越えて活躍する姿をまぶしく感じていた。

静岡新聞2012年11月26日付「しずおか音楽の現場」から。「ソロパフォーマンス」と題してトロンボーン1本だけで行うライブを始めた頃。その方法論を掘り下げた(写真・小糸恵介)

そんな村田さんが、40年の時を経てかつての学び舎で後輩の指導をしている。よくできた音楽映画の1シーンを見ているような気分になった。

<告知>
■Plays ガーシュインvol.12 村田陽一凱旋コンサート with 静響ポップス・オーケストラ 
▼日時 10月17日(金)午後6時15分開場、7時開演
▼会場 静岡市清水文化会館マリナート大ホール(静岡市清水区島崎町214)
▼出演
富士山静岡交響楽団
指揮・編曲・トロンボーン 村田陽一 
<村田陽一カルテット>
ピアノ林正樹、ベース納浩一、ドラム渡嘉敷祐一
▼プログラム(予定)
映画音楽メドレー(ティファニーで朝食を ほか)
ガーシュインメドレー(サマータイム ほか)
椎名林檎/望遠鏡の外の景色
本間勇輔/「古畑任三郎」テーマ
村田陽一/Full Moon
ガーシュイン/ラプソディ・イン・ブルー  ほか
▼料金 前売り全席指定一般5000円(当日5500円)、学生2000円 ※未就学児入場不可 
▼チケット問い合わせ 富士山静岡交響楽団(054-203-6578)※平日午前9時半~午後5時半

■村田陽一ビッグバンド 
▼日時 11月15日(土)午後4時開場、4時半開演
▼会場 グランシップ中ホール・大地(静岡市駿河区東静岡2-3-1)
▼出演
村田陽一(リーダー、トロンボーン、作編曲)
サックス:吉田治(アルト)、鈴木圭(アルト)、小池修(テナー)、竹野昌邦(テナー)、山本拓夫(バリトン)
トランペット:西村浩二、奥村晶、佐瀬悠輔、二井田ひとみ
トロンボーン:鹿討奏、東條あづさ、山城純子
ピアノ:松本圭司
ギター:養父貴
ベース:納浩一
ドラムス:渡嘉敷祐一
パーカッション:岡部洋一
▼料金 全席指定一般6000円、子ども・学生1000円
▼チケット問い合わせ グランシップチケットセンター(054-289-9000)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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