2026年1月31日
しずおか文化談話室

【静岡市東海道広重美術館の企画展「三人の広重」】「東海道五十三次」で知られる「歌川広重」は昭和40年代まで存在していた!? 浮世絵にみる社会の変化

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市清水区の静岡市東海道広重美術館で1月27日から開かれている企画展「三人の広重」を題材に。
(文・写真/論説委員・橋爪充)

私たちがよく知る浮世絵の「東海道五十三次」(保永堂版)を描いた歌川広重。だが、「広重」は1人ではない。1958年に「初代」が亡くなった翌年、1959年に弟子の重宣(しげのぶ)が二代となる。本名、鈴木鎮平。初代と同じ、江戸市中を火災から守る定火消同心の家の出である。

さらに重宣が1865年、喜斎立祥(きさいりっしょう)を名乗るようになったのを受け、初代の弟子重政(しげまさ)が三代に(二代を自称)。重政の死後、一度名前が絶えるが、明治末~大正初期(時期がはっきりしない)に菊池貴一郎が四代を継ぎ、その次男寅三が五代になった。

五代目が亡くなったのは1967年。昭和40年代まで歌川広重が存在していた、と思うとちょっと愉快な気分になる。

今回の企画展は5人の歌川広重から、初代、二代、三代に焦点を当てている。同じモチーフの作品を見比べると同時に、江戸期から文明開化の花が咲く明治時代に至る、時代の変遷を浮世絵の中に発見しようというのが趣旨だ。

前半は初代が「五十三次」で描いた静岡県内の風景を、二代、三代の作品と見比べる。初代「五十三次」は「人物東海道」と言われ、風景と共に人物を大きく扱う。初代の「五十三次 原」を参照したとおぼしき二代の「東海道五十三次 十四 はら」は縦位置を横位置に変更。奥に見える富士山に雪をかぶらせた。初代の「五十三次 鞠子」「五十三次 水口」も二代、三代はそれぞれに独自のスパイスを加えている。

興味深いのは「大津」の比較である。同じように「源五郎鮒」の看板を出した店を描くが、初代はかごを三代は人力車を描き込んでいる。江戸から明治に時が移り、交通手段にも変化があったことがうかがえる。

景色の変化という点では、特に三代はガス灯を好んで描いている。「東海名所改正道中記」では十三の「三嶋」、十九の「由井」、廿五の「藤枝」で目立つ場所に緑色のガス灯を置いた。このシリーズでは十五の「原」で旅人に洋傘を持たせているし、「由井」では海辺の風景にに人力車と電信柱を入れ込んだ。

正直なところ、中にはちょっと無理のある構図も見受けられる。ただ、歌川広重という由緒ある名前を時代に合わせてブラッシュアップしていこうという意気込みはうかがえる。ダーウィンで有名な「停滞は退化」「現状維持は衰退」といった、西欧由来の考え方を19世紀日本の絵師が心に秘めていたと思うと、彼らに親近感が湧いてくる。

<DATA>
■静岡市東海道広重美術館「三人の広重」 ※「ゆい年賀状版画コンクール 20回開催記念 歴代受賞作品展」を同時開催
住所:静岡市清水区由比297-1 
開館:午前9時~午後5時
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館、翌平日休館)
観覧料(当日):一般520円、大学生・高校生310円、小中学生130円
会期:3月29日(日)まで

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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