2026年2月12日

【ワールドスタンダードのデビュー40周年記念アルバム『KOMOREVIA』】 ギターは11曲全てオリジナルチューニング。心地よい光が降り注ぐ森の中を歩いているかのよう
(文/論説委員・橋爪充 写真/写真部・久保田竜平)

細野晴臣さんが主宰するノンスタンダード・レーベルから1985年、セルフタイトルアルバムでデビューしたワールドスタンダードは鈴木惣一朗さんの「屋号」のような名前として、長く用いられてきた。デビュー40周年を記念するアルバム『KOMOREVIA』は、音楽の作り手としての原点を見つめつつ、新しい表現の方法論を模索した、キャリアを総括する作品だ。
2020年、まさにコロナ・パンデミックの渦中に発表されたブックレット付き特別仕様の『色彩音楽』『エデン』『ポエジア…刻印された時間』は、本人の歌声を中心に据えたシンガー・ソングライター的な作品だった。カーネーションの直枝政広さんとの「Soggy Cheerios」(ソギー・チェリオス)からの連続性も感じた。惣一朗さんの「詩心」「歌心」に、率直に驚いたものだ。
閉塞感に満ちた時代の空気を吸って録音された3部作、特に『エデン』『ポエジア』はニック・ドレイクやスフィアン・スティーブンスを思わせる密室感、寂寥感をまとっていた。当時の取材で惣一朗さんは、先の見えない世相に対してのセルフ・ヒーリングのような心持ちでレコーディングを重ねたと言っていた。
コロナ騒ぎが落ち着き2年半ほどたってから発表された『KOMOREVIA』は音の聞こえ方が全く違う。何度か差し込まれる鳥の声に誘導されている面はあるが、部屋から出て森を歩いているような開放感がある。3部作の親密さはそのままに、心地よい光が降り注ぐ中を歩いているような気分になる。
クラシックギターの美しいアルペジオにチャイム。女性コーラス、フルートが天上から降り注ぐ『記憶の円環』で幕を開け、揺らぎのあるシンセとピアノの和音の後ろでリズムのかく乱をたくらむビートが鳴る『呼吸と人生と枯れ葉』と続く。
どの楽曲も清明なギターと、アナログ的なニュアンスが強いシンセサイザーが中心軸をなし、人の声や管楽器が彩りを添える。4曲目『リア王のテーマ』はメランコリックなピアノの響きが感動的だ。カエターノ・ヴェローゾのカバー『アルゲン・カンタンド』に続く『誰かが歌っている』には、胸をギュッと締め付けられた。
先頃実施した、惣一朗さんへのインタビューによると本作のギターは全て、オリジナルチューニングだそうだ。「40年間の手癖や頭の癖から脱却したい」というのが理由。還暦を過ぎてもなお、攻撃的とすら言えるような挑戦を続ける姿に、「本物」の姿を見た。
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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