2026年2月15日

【ワールドスタンダード・鈴木惣一朗さん(浜松市出身)インタビュー】デビュー40周年アルバム「KOMOREVIA」。木漏れ日の希望、明るさをインスト曲に
(聞き手/論説委員・橋爪充 CD写真/写真部・久保田竜平)
映画『PERFECT DAYS』がきっかけだった
-「木漏れ日」というアイデアはどこから来たのですか。鈴木:(コロナ禍の時期にレコーディングした)『色彩音楽』『エデン』『ポエジア…刻印された時間』の3作はまさにロックダウン期のアルバムだったから、そこから前に向かいたい。そういうフェーズだったんです。そんな時に(ヴィム・ヴェンダース監督の)『PERFECT DAYS』を2025年初頭に見て、「あ、木漏れ日だ」と。あえて造語『KOMOREVIA』にしてみたら、ワールドスタンダードっぽい感じになりました。
-『PERFECT DAYS』、役所広司さん演じる清掃員が木漏れ日の写真を撮る場面が印象的ですもんね。
鈴木:つつましい生活をしているんですよ。古書店で1冊 100円の文庫本を買って、ルー・リードの曲をテープで聞いて。朝起きたら缶コーヒーを買って、毎日公園のトイレの清掃をするという日々。ヴェンダースは小津安二郎の大ファンだから、そういう日常を切り取って伝えたいものがある。僕も、アンビエントというか、静かな音楽をやっていますが、内面は激しく動いているわけです。
-共通点を感じます。
鈴木:単に美しくて静かな音楽を作っているわけではなくて。よく聴いてもらえれば僕の気持ちの揺れが入っている。 今回(ワールドスタンダードの)デビュー40周年でアルバムを出すのであれば、コロナが終わってるかどうかはまず置いておいて、何か一つ、希望や明るさっていうものがテーマだなと。
-木漏れ日はその象徴であるわけですね。
鈴木:そうですね。葉っぱをすかして見える太陽の光ですが、この概念は日本語にしかないんですよ。例えばフランスやアメリカ、イギリスには葉っぱの間から漏れ見える光をめでる風習がない。日本で言えば「わびさび」の一つということになるかもしれない。そんなことを知ったら、もう絶対それがいいなと思って。
1985年を思い返しながら作った
-コンセプトが先にあって、作品ができたということですね。鈴木:11曲のタイトルとジャケットが先にできていたんです。「外枠」をまず全部作った。デモテープを去年の正月から 5月ぐらいまで作って、5 月からレコーディング。曲名に合わせて作曲する感じでした。いつものように20曲ぐらいから11曲に落としていった。
-カバーもありますよね。ブラジルのカエターノ・ヴェローゾ、ジョージアの作曲家ギヤ・カンチェリ、イタリアの作曲家オリヴィア・ベッリの曲も扱っています。
鈴木:現代音楽の曲をポップにやろうという気持ちがあって。用意したものの中から残しました。(アルバム全曲を)オリジナルだけで構成しようという気もなくはなかったんですが、 そうするとやっぱり風通しが悪いというか、 閉鎖的になっちゃうので。
-オリヴィア・ベッリの『Respiro』には『呼吸 <6> 』と副題が付いていますね。
鈴木: イタリア語の訳なんですよ。制作中に2回、百日ぜきなのか弱毒性のコロナなのか分からないんですが、せきが出て。それで「あ、呼吸がテーマにできるな」と思いました。正しい呼吸ができないとギターを弾けないんですよね。
-原曲はピアノ曲ですが、カバーではギター主導で表現されてますよね。
鈴木:演奏に祈りのようなものを感じて、合唱で包んで賛美化に近づけていく作業をやりました。普段、あまりそういうことはないんだけど、ギターを弾いていたら涙が出てきちゃった。どういう意味があるかについては考えないようにしていたんですが、希望があるものを作るのにはパワーが必要なんだと。でも、自分の体調は思わしくない。年齢も今年67だし。「いつまでこういうことができるのかな」という切ない気持ちにもなったんだと思います。
-『色彩音楽』『エデン』『ポエジア』の 3部作は、制作環境が音に出るタイプの惣一朗さんらしく、コロナ禍のレコーディングをへて出来上がった「密室感」が感じられましたが、『KOMOREVIA』は対照的に「外に出た」という感覚が強くあります。『ポエジア』に少し存在した光が、より強くなった気がします。3部作で解禁していたご自身の歌声を再び封印してもいます。音の方向性について、どう考えていらっしゃったんですか?
鈴木:デビューした1985 年を思い返しながら作ってたんです。当時はYMOが「散開」し、ニューウェーブやテクノの次にあるものを作りましょう、といった時期。でも、いまさら日本語のポップスをやるわけにはいかないなというのが、僕の率直な気持ちだったんです。自分が表現したいサウンド、まあアンビエントでも「音響」でもいいんですが、そうしたものに歌詞をつけなくても、抽象的なやり方で行けるんじゃないかという気付きがあったのが85年。細野さんはそれを応援してくれた。そこに戻っていったのが今回の作品です。
シンセサイザーを徹底的に使おうと考えた
-インストがほとんどですが、耳に残るメロディーが満載ですね。鈴木:(自身が歌う)パンデミック3部作を作る時に細野さんに相談したことがあったんです。日本語のポップスは歌詞を付けて歌わないといけないのか、みたいなことを。そうしたら細野さんは「鈴木君は今までもインストゥルメンタルで歌っていたよ」と言ってくれた。多分、改めて歌詞を付けて歌う必要はないんじゃないかという意味だと思うけれど。うれしい気持ちがあったんですよ。僕にとって「歌わない」というのはそんなにネガティブな意味はない。ポジティブな気持ちなんです。
-歌の比重が少なくなった分だけ、フルートやコルネットの音がよく聞こえます。エレクトリックギターも使っているでしょうか。パンデミック3部作にはなかった音があるなあという感想ですが、サウンド構築の面で、どんなことを考えていたんでしょうか。
鈴木:多分、エレクトリックギターと感じた部分は、僕がシンセサイザーで作った音じゃないかな。実機だけじゃなくてモジュラーシンセサイザーも含め、 今回は自由に、徹底的に使おうと考えていました。デビュー時期にシンセサイザーありきで作っていたので、クラシックギターとシンセサイザーがあれば何でもできるなと。
-どんなシンセを使ったんですか。
鈴木:ブライアン・イーノがロキシー・ミュージック時代に使っていたEMSとか、1985年頃に僕がよく使っていたヤマハのDX7、それからオーバーハイムのMATRIX。教授(坂本龍一さん)が大好きなProphet-5も。
-いわゆる名機とされるシンセばかりですが、今回の作品の音は全然古くないですね。
鈴木:そのまま使うと古く感じるんですよ。このあたりは企業秘密だけど、生楽器も含めていろいろな音と重ね合わせて使っているので新しく聞こえるんだと思います。フィルターを通したり、エフェクターを通したりもして。40年前のやり方を思い返して「自分シミュレート」している感じかな。
-40 年前の作業を見つめ直してその方法論を採用している。ここはプレイヤーと言うより、音楽プロデューサー的感覚ですね。
鈴木:いろんなものを見聞きしたり、映画を見たり。人生の苦みも知って。そういうものも多少は入っている。ワールドスタンダードは「結末があるようでない映画」のような音楽なんですよ。
ギターは全部オープンチューニング
-シンセだけでなく、全編にわたってギターの音色も美しいですね。鈴木:これは秘密があって。全曲オリジナルのオープンチューニングなんですよ。1弦ずつ上げたり下げたり、いろいろやっているわけ。開放弦だけで曲になるぐらいにしちゃっています。すごく楽に弾けた感があって、曲を膨らませていくならオープンチューニングが一番だと。もうレギュラーチューニングなんてどうでもいいやと。
-レコーディングの作業が大変だったのではないですか。
鈴木:クラシックギターを5本持っているんですが、それぞれ別々のチューニングにして。夜中にある曲のフレーズをぱっと思いついても、曲に合わせたチューニングのギターを持ってくれば対応できる。
-11曲入っていますが、さすがに11 通りのチューニングというわけではないですよね。
鈴木:ほぼ11通りのチューニングです。(米バンド)バルモレイのマイケル・A・ミュラーの来日公演を見たら、彼も全曲オリジナルチューニングだった。今度一緒にレコーディングすることになっているから、中華料理を食べに行って話をしたんですが、ジョン・フェイヒーの影響だと言っていて。「僕もそうだよ」って。フェイヒーのカントリーブルースは、基本的にはオープンチューニングなんです。
-研究対象があるのですね。
鈴木:ジョニ・ミッチェルも。パット・メセニーやジャコ・パストリアスと一緒に演奏している映像で、すごい不思議なテンションが鳴ってるのに軽く弾いている。それはやっぱりチューニングを変えているんです。どういう風に鳴らしていて、どういう風に曲作っているのかを研究しました。
40年間の手癖や頭の癖から離れたかった
-そこまでオープンチューニングを重視する理由は何でしょうか。鈴木:やっぱり40年(音楽家を)やると、手癖や頭の癖が付いて回る。そこから離れたいわけですよ。肉体的に離れたい。肉体的にすでに覚えているもので作っても面白くないわけですよ。オープンチューニングはよくわからないまま弦を押さえているところもあるので、開き直ってやると面白いものができる。どんどん曲もできるんです。聞いたことがないようなコードになるし、聞いたことがないような曲ができる。
-譜面を再現する世界とは全く違いますね。
鈴木:アドリブともちょっと違うんです。僕の相棒と言っていい山本哲也くんが助けになってくれていて、全部譜面化してくれる。こちらはコードを意識していないけれど、分析すると一応(コードが)あるんですね。それで、譜面が毎回できる。ミュージシャンを呼ぶこともできる。
-アルバムはできましたが、ライブはやらないんですか。
鈴木:これ、再現性がなかなか難しいんです。歌ものだったらリアレンジできるけれど、インストゥルメンタルとして成立させるためには、10人ぐらい演奏者が必要でリアレンジもしなくちゃならない。それをやっている時間があったら、新しい作品を作りたい。
-そういうモードなんですね。
鈴木:だからもう1枚、来年の 6月に出す予定です。そうすれば、来年の秋にライブというのが綺麗な形じゃないですか。年を取ると好奇心がなくなるって言うけれど、全然そんな感じはない。結局、アルバムを作るのが一番好きなんですよね。
静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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