2026年2月22日

【松江市で“静岡ゆかり”の建築家の作品をたどる】「ばけばけ」聖地巡礼に菊竹清訓さんの建築鑑賞を組み込んだ
(文・写真/論説委員・橋爪充)
松江市の田部美術館。菊竹清訓さんの設計
焼津市と縁が深い作家小泉八雲(1850~1904年)と妻セツ(1868~1932年)をモデルにしたNHK連続テレビ小説「ばけばけ」の舞台の松江市を訪れている。
松江歴史館、小泉八雲旧居、小泉八雲記念館など松江城周辺のいわゆる「聖地」を巡っているうちに気がついた。松江、「カッコいい」建築が多くないか?
きっかけは松江城近隣の「島根県庁第三分庁舎」だった。日韓がそれぞれに領有権を主張している竹島について解説する「竹島資料室」というのぼりにひかれ、「ばけばけコース」を外れて入った県庁第三分庁舎がとてもスタイリッシュだった。
島根県庁第三分庁舎
かつて県立博物館だったこの建築は、上空にせり出た3階部分をぶっとい柱3本が持ち上げている。背の高い窓が整然と並ぶ通り側の黒々とした面と、壁のような庭園側の白い面のコントラストが特徴的。2階部分の手すりは寺社建築をほうふつとさせる。庁舎内に置かれた資料によると登録有形文化財のこの建築は、菊竹清訓さん(1928~2011年)の設計によるもの。完成は1958年。博物館設立に主導的な役割を果たしたのは、後に島根県知事を務める田部長右衛門さんだった。当時20代の菊竹さんに、これほどの大規模設計を任せた先見の明に驚かされる。
菊竹さんは、静岡県とも縁がある建築家だ。よく知られているように、沼津市芹沢光治良記念館、長泉町井上靖文学館、ベルナール・ビュフェ美術館(長泉町)は菊竹さんの設計。プラサヴェルデ(沼津市)、静岡大成中・高(静岡市葵区)を設計した長谷川逸子さん(焼津市出身)は、菊竹清訓建築設計事務所の出身である。
松江と静岡県のもう一つの縁をもらったような気がして、「ばけばけ」関連と並行して松江城周辺の菊竹建築も訪ねることにした。
島根県立図書館
島根県立図書館(1968年)は、建物に入ると吹き抜けにメイン階段がある。2階部分は北側に長く延びる第1一般資料室の横に、雁木状に資料室が連なる。テトリスを思い浮かべるとわかりやすいかもしれない。長い棒の下に「L」を反転させた造形が横たわり、その下に「まんじ型」の縦部分を置いたようなイメージ。階段を上ると、歩行路が壁面に沿ってつくられている。県庁第三分庁舎と似ている。図書館と向かい合うようにして建っている島根県立武道館も菊竹さんの設計だ。
島根県立武道館
「ばけばけ」聖地の小泉八雲記念館や小泉八雲旧居の並びにある田部美術館(1979年)は、地元の名家である田部家に伝わる書画、陶磁器、漆器を展示する。先述した元島根県知事の田部長右衛門さんは23代。美術館の創設者としても名を残す。
田部美術館の階段から見上げる2階部分
なだらかなスロープを伝って2階展示室に入ると、第2展示室には坪庭のように小さな枯山水がある。階段の踊り場から2階部分を見上げると、あちこちからの線が複雑に交差している。カンディンスキーの「コンポジション」を想起した。
第2展示室の枯山水
島根県立美術館のエントランス
松江城エリアからバスで20分ほど、宍道湖のほとりに位置する島根県立美術館(1998年)も菊竹さんの手によるもの。「刻々と変化する渚」をモチーフにしたという。チタン製の大屋根が優美な曲線を描いている。3階部分に位置する展示室に立って頭上を見ると、なだらかなカーブが心地いい。
3階部分から1階にかけてなだらかなカーブを描く天井
エントランスの真ん中に置かれているブロンズ像はオーギュスト・ロダンの「ヴィクトル・ユゴーのモニュメント」(1897年)。ロダンと言えば、静岡県立美術館のコレクションを思い起こす。さらにもう一つ、静岡とのつながりを見つけた気がした。静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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