2026年2月26日
しずおか文化談話室

【静岡県立美術館の企画展「中村宏展 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」】2020年代の戦争画シリーズの後に1950年代の作品を鑑賞。そこにある連続性とは

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は3月15日まで静岡市駿河区の静岡県立美術館で開かれている企画展「中村宏展 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」を題材に。
(文・写真/論説委員・橋爪充) 

ことし1月8日に93歳で亡くなった日本の戦後美術を代表する画家・中村宏さん(浜松市出身)。静岡県立美術館での大規模回顧展も会期終盤に入った。

本展では1950年代から2020年代までの中村さんの作品が見られる。モチーフや技法の変遷はあるが、2020年代の『空襲 1945』(2022年)をはじめとした「戦争画」のシリーズ4点が心に残る。中村さんは太平洋戦争の末期、機銃掃射を受けた経験が2回あるという。迫り来るB29を巨大な白い雲として描いた『空襲 1945』の前に立つと、「中村少年」の恐怖や胸の鼓動がこちらの体に入り込んでくる。

『空襲 1945』


これら近作を見た後に、展覧会の第1章に戻ってみる。中村さんは1951年に上京し、日本大学芸術学部に入学した。日本が主権を回復するサンフランシスコ講和条約締結の年だ(発効は1952年4月)。時系列で考えるなら、2020年代の戦争画シリーズで描いた出来事の後に、ルポルタージュ絵画の代表作とされる『砂川五番』(1955年)や『戦争期』(1958年)が置かれることになる。

『砂川五番』

当時の中村さんにとって、戦争はまだ記憶に新しいものだったはず。そして左翼芸術運動に関わっていた時期もあったことから、「戦争の気配」に一層敏感だったに違いない。米軍基地拡張の反対闘争の現場を描いた『砂川五番』には、ある種の切迫感がある。自分も当事者だ、というような。

1952年の「血のメーデー事件」に材を取った『革命首都』(1959年)は、壇上にいる権力者の背後で銃を構えた複数人がにらみを利かせる。軍が大衆を操る戦争のシステムの本質が、絵画化されている。戦争の痛苦を身をもって体感した中村さんは、社会に漂う「戦争の気配」をキャッチし、警句を込めた作品に仕立てる作業を繰り返し行っている。

現代政治との連続性という意味では1958年の『都市計画』が興味深い。新聞を使ったコラージュ作品。左右社会党統一、自由民主党の誕生後初めて行われた、1958年5月の第28回衆院選の立候補者の顔がずらっとならび、建設中の高層ビルの窓になぞらえている。

『都市計画』


山口1区に「安倍晋太郎」、山口2区に「岸信介」といった顔が見える。先の選挙で大勝した女性首相が信奉する元首相の父親、祖父である。島根全県区には「竹下登」が。後に首相となり、1989年に消費税を導入した。さらに言えば作品の下部には韓国大統領の李承晩氏の顔も。彼が宣言した李承晩ラインで韓国領に組み込んだ竹島は、今も日韓双方が領有権を主張し、解決に至ってはいない。

中村さんはこの新聞記事を「素材」として何気なく使ったのかもしれない。だが、政治や国際関係の連続性を考えたときに、この作品は2020年代を生きる私たちにさまざまな視座を与えてくれる。優れた作品は時を超えると言うが「こんな超え方もあるのだ」と感じた。

<DATA>
■静岡県立美術館「中村宏展 アナクロニズム(時代錯誤)のその先へ」
住所:静岡市駿河区谷田53-2 
開館:午前10時~午後5時半(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料(当日):一般1400円、70歳以上700円、大学生以下無料
会期:3月15日(日)まで

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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