2026年3月13日
しずおか文化談話室

【丸石神調査グループ『丸石神』(カノア)】丸い石に魅せられた人々の、熱に浮かされたようなテキストの数々

静岡県のアートやカルチャーに関するコラム。今回は2026 年3月5日初版発行(奥付)の丸石神調査グループによる『丸石神』(カノア)を題材に。1980年発刊の『丸石神 庶民のなかに生きる神のかたち』(木耳社)を再編集し、宗教史学者・文化人類学者の中沢新一さんによる書き下ろし論考「『丸石神』の残したもの」を増補。
(文/論説委員・橋爪充 写真/写真部・久保田竜平)

山梨県をはじめ九州、四国、南紀にある、道祖神や屋敷神としてまつられた自然石の丸石についての論考を集めた書籍。各地の「丸石神」の美しい写真も掲載する。

まずは裏表紙に記された「丸石神調査グループ」の面々の名前に注目したい。書籍の巻末の略歴を頼りに紹介すると、遠山孝之さん(写真家)、中沢厚さん(在野の民俗学者)、石子順造さん(美術評論家)、小島福次さん(彫刻家)、 中沢新一さん、堀慎吉さん(編集者)。

最初に生まれた謎は「46年前の書籍になぜ中沢新一さんの名前があるのだろう」だった。中沢さんは「2026年2月」と結んだ新しい論考も寄せているし、帯文にも「丸石神とは何か? その問いがいまも私をとらえて離さない」と熱い。ずいぶん入れ込んでいるけれど、それはきっと中沢さんが山梨県出身だからなのだろうな。そういう理解で読み進めた。

ところが、本の最後に掲載されている彼の最新の論考を読んで「あっ」と声が出た。そういうことだったのか。この論考自体、ちょっと思わせぶりに書いている。原稿の半ばまで、とある「ヒミツ」をずばり明かしていない。なんだか、ミステリーの種明かしパートのような趣だ。

中沢さんと石子順造さんの名前が並んでいるのも、ちょっとした謎である。二人の出会いについても、この論考に詳しく書かれている。

石子さんは静岡ゆかりの美術評論家。1960年代後半から1970年代にかけて静岡市で活動した美術家集団「グループ幻触」の理論的支柱としても知られる。当時は鈴与の社員で、静岡市清水区に住んでいた。

くだんの論考では、石子さんが仲間を引き連れて山梨にやってきた時の熱気をはらんだ様子が具体的に書かれていて面白い。グループ幻触の鈴木慶則さんも同行していた。彼らは道祖神として信仰を集める丸石を「現代美術の先にあるもの」と捉え、山梨県内でフィールドワークに臨んだ。中沢さんが記述した、彼らのコメントを引用する。

「これこそもの派の先にあるものだ」
「ものがもののまま、言語や観念が介在しないまま、存在が存在している」
「ブランクーシそこのけだなあ」
「いや、それ以上だ。丸石神には作品という意識もないぞ」
「こんなもの見たら、美術なんていらないって思えてくる」

素晴らしいコメント再現だ。本書籍の原本が制作された1970年代においては、各地に散らばる丸い石が大きな興奮を呼んでいたことが分かる。

では、この丸い石の正体はなんだろうか。それがこの本の主眼である。中沢さんの新論考の前の230ページが費やされている。基本的には「縄文時代から続く信仰の対象」ということになるだろうが、4人の書き手がそれぞれの立場から自分と丸石について、あるいは丸石について調べたり考えたりしたことを、詳しく書いている。

石子さんは丸石の形のバリエーションに着目し、卵形と球体が人間の感覚に及ぼす作用について考察する。中沢厚さんの長大な原稿は、まさにこの本の核心と言ってもいい。山梨県内をくまなく歩いて探し当てた丸石の数々を描写し、歴史学、地学、民俗学などありとあらゆる分野の文献を参照してこの不思議な石の何たるかを解き明かそうとする。小島さんは東西の宗教芸術に目配りしながら、日本人が祈りを捧げる「かたち」について論じる。

丸い石に魅せられた人々の、熱に浮かされたようなテキストの数々が読み手をも熱くする。活字を通じて伝播(でんぱ)するこの熱こそ、数千年にわたって崇敬の対象となった丸い石の力そのものなのかもしれない。

静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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