2026年3月23日

藤枝・まるか村松商店で見つけた静岡方言の包装紙が面白い!東西の横綱に「ごせっぽい」「やっきりする」
私が訪れたのは春分の前日で「家でぼた餅をつくる」と、年配の女性が評判のあんこだけを1キロ買いに来た。かと思うと、ノートパソコンを開いたビジネスマン2人が、今風に言えばイートインができる店内で打ち合わせをしている。夕方4時を過ぎたら部活帰りの高校生がやってきて、夕飯までのつなぎに焼きたての大判焼をほお張っていた。

そんな幅広い年齢層のにぎわいの中で最年長は、大判焼を始めた義父母から店を受け継いできた村松加寿子さんだ。卒寿を迎えたとはとても思えない肌つやをしている。その秘訣(ひけつ)は、商いの切り盛りは次世代に譲ったものの「今もあんこを煮る仕事をしているから」だと言い、かいがいしくお茶を出してくれた。

今回スポットを当てるのは、この店の包装紙だ。加寿子さんによると、義父の久次郎さんが、静岡駅で売られていた手ぬぐいに方言番付が染め抜かれているのを見つけ、許しを得て包み紙のデザインとしたという。静岡の代表的な方言が相撲の番付形式で48語挙げられ、共通語訳も添えてある。
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東の横綱は「ごせっぽい(せいせいする)」だ。例えば、いつもは炊事に忙しい主婦が「今日は、お父さんも子どもっちも出かけたもんで、ごせっぽい」などと使った。家康が駿府城内で節句のしつらえを見て「御所っぽい」と言ったのが、この言葉の始まりだとする説がある。語源エピソードからして横綱級なので、最高位に推挙されたのに異存はないが、近年、使用頻度はかなり落ちていないか。今となっては、引退間際の大ベテラン力士をイメージする語だ。
かたや西の横綱には「やっきりする(腹が立つ)」が座る。今も50代以上なら割と使うから、静岡方言界で現役バリバリの横綱と認めたい。何と言っても技が多彩である。共通語訳を拾うと、次々に少しずつ異なる意味が見つかる。「腹が立つ」の他にも「イライラする」「じれったい」「悔しい」など。話し手からすれば、あきらめの気持ちが入っているとか、腹を立てている相手に面と向かってでなく、第三者に愚痴をこぼす時に言うとか、「やっきりする」でなければうまくないニュアンスや状況があるから、今なお使い続けられるのだろう。
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店に来ていた男子高校生に番付を見せてみた。大判焼4個以上の持ち帰りでないと、この包み紙で提供されないから、店先の買い食い高校生にとっては初見の方言集である。その中で東前頭9枚目に位置する「ぶしょったい(きたない)」は「分かるし、使う」という。理由を聞けば、母親に毎日のように「ぶしょったい」と言われるからだそうだ。服が汚れている場合だけが「ぶしょったい」ではない。寝ぐせがついたままだとか、制服のワイシャツがスボンから飛び出していても「ぶしょったい」と指摘される。
おととし静岡市の井川で方言取材をした時に、研究機関の言語学者が「方言継承のカギは50代」と解説していたのを思い出した。「80代は方言を話す。その子ども世代の50代は方言を理解できるが、あまり使わない。50代が自ら使えば、若者にも方言は伝わる」という論法だ。見事にその通り、藤枝のある親子の間で「ぶしょったい」が受け継がれている。(お母さんがもし40代だったら申し訳ないと思うが、論旨は違わない。)
「居酒屋でトイレに入ったら、うちの包装紙が額に入れて飾ってあったので驚いたことがある」と教えてくれたのは、今の女将(おかみ)村松弘美さんだ。とうに久次郎さんは亡くなり、方言番付を包み紙に採用した真意は確かめようもないが、居酒屋がそう思ったように、紙を残しておきたくなる内容にして、宣伝効果をより高くすることを狙ったのだろうか?方言番付の右横には、店の名も、ところも、電話番号も書いてある。いや、それは私の考えすぎで、純粋な郷土愛や遊び心から方言を取り上げたのだろうか?
いずれにしても「うっちゃっちまうにゃー、ちーと惜しい」紙であるのには違いない。「うっちゃる(捨てる)」は番付包装紙の幕尻に控えていた。
文:SBSアナウンサー・野路毅彦
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