2026年6月8日

サッカージャーナリスト河治良幸
鈴木唯人、初のW杯へ!「根拠のない自信」を武器に、日本の新たな切り札となる

しかし、大会直前に鎖骨を負傷し、一時は本大会への影響も懸念されたが、本人に焦りや不安は見られない。むしろ、この数週間を経て、これまで以上に自信を深めているように映る。鈴木は「思ったより良い感覚で代表に合流できた。体も動いているし、ボールの感覚も悪くない」と順調な回復ぶりを強調した。
フィジカル面についても「100%だと思う」と言い切り、実戦復帰への不安もないという。クラブからは慎重な調整を求められていたものの、本人は「あと1週間もあるので良い状態に持っていける」と冷静だった。不運な負傷によってヨーロッパリーグの決勝など、シーズン終盤の重要な試合を逃した悔しさはある。しかし、その時間を悲観的には捉えていない。
「逆にワールドカップに照準を合わせられたことは、自分にとってすごくポジティブだった」
そう語る鈴木は大会へ向けて、コンディションを整える時間を得たことを前向きに受け止めている。鈴木の強みは、攻撃の停滞した局面でも違いを生み出せることだ。アイスランド戦をピッチ外から見守った際には、相手の堅いブロックに対して攻撃のテンポやリズムを出す難しさを感じたという。その上で、自身であればライン間でボールを受け、前を向いて運びながら局面を変えられる感覚がある。本人が繰り返し口にするのが「ライン間」という言葉だ。
自分の特長はライン間で受けて攻撃をクリエイトすることだと語る。ターンの巧みさが注目されることも多いが、鈴木自身はターンの技術以上に、その前段階となる立ち位置を重視している。センターバックに近づき過ぎれば相手を引き出せない。あえて中盤の選手に近い位置を取りながら背後のスペースを作り、前を向く時間を確保する。その準備こそが重要だという考え方だ。
代表では当初、自分のイメージ通りにプレーできている感覚が少なかったという。しかし、最近は状況が変わってきた。自身が成長したことに加え、周囲の選手たちも鈴木の特長を理解し始めている。「非常に感触良くやらせてもらっている」と語るように、チームとの融合は着実に進んでいる。
“森保ジャパン”には高い能力を持つアタッカーが揃う。その中でも鈴木は、自分のプレースタイルが比較的、希少なタイプだと感じている。狭いスペースで受けて前を向き、推進力を持って相手をはがしながらゴールへ迫る。スタートからでも途中出場でも、自分がもたらせるものは明確にイメージできているという。だからこそ、大舞台を前にしても気後れはない。
「主力メンバーに入ればできる感覚はある」と言い切る言葉に迷いはなかった。ワールドカップは拮抗した試合が多くなる。だからこそ、一瞬で流れを変えられる選手の価値が高まる。鈴木は、自分がその役割を担えると信じている。さらに武器は流れの中のプレーだけではない。セットプレーにも強い自信を持つ。
CKを含めたキッカー役について、鈴木は「得点が動く場面は多い。チームとしてこだわりたい」と語った。近年の国際大会では、セットプレーが勝敗を分けるケースも少なくない。流れの中で崩せなくても、一つのキックで試合を動かせる力は大きな武器になる。
環境への適応も順調だ。湿度の高さは感じているものの、想像していたほど厳しくはないという。時差についても徐々に慣れてきており、練習拠点の移動なども特に気にならない。暑さに対しても、慣れながら対処法を見つけていけばいいと落ち着いて受け止めている。そんな鈴木のメンタリティを象徴するのが、「根拠のない自信」という言葉だ。
若い頃から周囲の選手とは違うものを感じさせる存在だったと言われることについて問われると、鈴木は笑いながら「根拠のない自信を持っていたので」と答えた。もっとも、その自信は今や決して根拠のないものではない。ヨーロッパでの経験を積み重ね、日本代表でも結果を残し、海外の舞台で確かな成長を遂げてきた。だからこそ今は、自信と実力が結びつき始めている。
そして今大会、日本代表の左シャドーには大きなチャンスが広がっている。主力候補の不在によってポジション争いは激化しているが、鈴木自身はそれを絶好の機会と捉えている。「ここで力を示すことができる。良い舞台にしたいし、それだけやれる自信はある」と鈴木。初めてのワールドカップを前にしても、緊張について問われれば「特に何も深く考えていない」と笑う。その表情から伝わってくるのは、不安ではなく期待だ。
大舞台を前に、日本代表での居場所も確立しつつある。局面を変える創造性、ゴールへ向かう推進力、そして揺るがない自信。そのすべてを携えて、清水から欧州へ飛び立った鈴木唯人が世界の舞台へ挑む。日本代表の新たな切り札となる準備は、着実に整っている。
(文:サッカージャーナリスト河治良幸)
タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。サッカー専門新聞「エル・ゴラッソ」の創刊に携わり、現在は日本代表を担当。世界中を飛び回り、プレー分析を軸にワールドサッカーの潮流を見守る。
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