2024年12月27日

【上原美術館近代館の「ものがたりをよむ」展】 小林古径「芥川」「井筒」。一歩近づくごとに物語の強度が高まる

上原美術館近代館は第1展示室の空間作りに注目である。あるテーマに沿って洋画、日本画のコレクションから相応の作品を選び、適正な位置に配置する。隅々にまでキュレーターの「編集」の力を感じる。まるで空間全体が一つの作品のようだ。
今回のコレクション展では、展示室入口の正面奥に小林古径の「芥川」「井筒」が配置されている。暗がりの中にぼんやりと浮かび上がる2作は、一歩一歩近づいて行くにつれて、モチーフが鮮明になっていく。
2作は共に「伊勢物語」を題材にしたもの。だが幼なじみの男女が井戸の周りで遊ぶ「井筒」に対して、「芥川」は駆け落ちの道中に鬼に襲われる女を描く。男女の情愛を下敷きにした、相反する光景が横並びになることで、物語の「強度」が一層高まるように感じた。

聖書を題材にしたアルブレヒト・デューラーやジョルジュ・ルオー、ギリシャ神話に範を取ったマルク・シャガールらの作品もユニーク。シャガールはオデュッセイアにも出てくる海の精「セイレーン」を描くが、なぜか空中に浮かんでいて、いかにも彼らしい発想である。

作品それ自体の「物語」が最も感じられるのはパブロ・ピカソ「科学と慈愛」。ピカソ15歳の筆による本作は、彼の人生を決定付けた。そして今、伊豆の山中にある。なんという巡り合わせだろう。(は)
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■上原美術館近代館「ものがたりをよむ」
住所:下田市宇土金341
開館:午前9時半~午後4時半
休館日:展覧会会期中は無休
観覧料(当日):大人1000円、学生500円、高校生以下無料
会期:2025年1月13日(月・祝)まで
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。
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